見もの・読みもの日記

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温かい白/歴代沈壽官展(日本橋三越本店)

2011-01-27 23:57:11 | 行ったもの(美術館・見仏)
○日本橋三越本店 パリ・三越エトワール帰国記念 薩摩焼 桃山から現代へ『歴代沈壽官展』(2011年1月19日~31日)

 16世紀後半、朝鮮半島から連行された陶工たちが生み出した薩摩焼。その伝統を守り伝える沈寿官(沈壽官)家を紹介する展覧会。私は「薩摩焼」という耳慣れない名前を、かつて年下の友人から教わった。「どんな焼きもの?」と聞くと、「え、金ピカでゴテゴテした焼きものですよ」とつまらなそうに彼は答えた。この説明は、あながち間違いではない。慶応3年(1867)のパリ万博に出品された薩摩焼は、高い評価をもって迎えられた。以後、海外輸出ブームに乗ってつくられた「金ピカでゴテゴテ」の薩摩焼は、今でも「SATSUMA」で画像検索をかけると(オレンジのSATSUMAに混じって)ネットの上で見ることができる。

 その後、私は京都・相国寺の承天閣美術館で、実際の薩摩焼を見る機会があった。繊細な白い肌、品のある色絵付けは、「金ピカ、ゴテゴテ」の先入観から遥かに隔たっていて、意外だった。

 薩摩焼には、白薩摩(藩主向けの御用窯)と黒薩摩(大衆用の日用雑器)がある。本展で紹介されている作品は、ほとんどが白薩摩である。その「白」の美しいこと! 柿右衛門のつるりとした乳白色とは違う。何か近いものを探すなら、ざらざらした卵の殻の白ではないかと思う。温かみのある「ざらざら感」を生んでいるのは、貫入と呼ばれる細かいひびわれである。

 司馬遼太郎が『故郷忘じがたく候』の中に書いていたが、当時の日本人にとって「白いうつわ」というのが、どれだけ驚くべき技術だったか、いまの私たちには想像困難なところがある。展示の冒頭に、17世紀初頭、初代沈当吉が焼いた『伝火計手(ひばかりで)』という白薩摩茶碗が飾られていた。朝鮮の陶土・釉薬を用いて、日本の窯で焼いたといわれる茶碗で、日本で借りたのは「火ばかり」なので、この名前がある。造型は素朴だが、荒削りな白い肌の美しさは何ともいえない。

 人間技とは思えない透かし彫り、華麗な色絵付け、日常風景をとらえた愛らしい色絵付けなど、見どころは多々あるのだが、全ては、この白の美しさを活かすための工夫なのではないかと思った。あと、人形(ひとがた)のひねりものは、繊細な表情が、なんとも言えず、いいなあ。
コメント
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