見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

博物館に初もうで2011+本館リニューアル(東京国立博物館)

2011-01-10 21:38:33 | 行ったもの(美術館・見仏)
 今年も東京国立博物館(トーハク)に初詣。いや、すごい人出でびっくりした。本館のコインロッカーの空きを探すのに苦労したくらい。結構なことである。

■本館特別2室 新春特別展示『博物館に初もうで 美術のなかのうさぎと国々のお祝い切手』(2011年1月2日~1月30日)

 しかめつらしい顔が、あ、雪村の鷹だ!と感じさせる雪村周継筆『鷹山水図屏風』。実は岩陰に野ウサギが身をひそめているのだが、あまりにも気配を消し過ぎていて、そのことに気付かないで通り過ぎていく観客が多かった。宗達の『兎桔梗図』は、薄墨を塗り残した白ウサギが愛らしい。前田家伝来、明時代の『濃萌黄地花兎文金地金襴裂(こきもえぎじはなうさぎもんかなじきんらんぎれ)』について、耳の長い神獣は麒麟(?)なのに、ウサギ好きの日本人は、これを「兎文」と呼んだ、という説明が面白かった。そうか、日本人はウサギ好きなのか。

■総合文化展+本館リニューアル記念特別公開(2011年1月2日~1月16日)

 2011年1月より本館平常展が一部リニューアル。これからは平常展と呼ばず「総合文化展」と呼ぶのだそうだ。そして、「本館のリニューアルを記念して、東博(トーハク)の所蔵作品のなかから選りすぐりの名品を期間限定で公開します」とホームページではうたっているが、雪舟の『秋冬山水図』にしても、光琳の『風神雷神図屏風』にしても、東博の平常展に通い慣れた身には、おなじみのラインナップで、あまり食指が動かない。

 よかったのは『時代不同歌合絵』(鎌倉時代)。時代の異なる歌人を番わせた「ありえない」歌合という着想が面白い上に、会ったこともない歌人の顔かたちを、精緻な白描で、それらしく写実的に描いているのが面白い。室町時代の『打毬図』にも驚いた。日本にもこんなのがあるのか、と。馬には乗らない、徒歩打毬の図だった。

 『尊海渡海日記屏風』は、裏(日記)も表(瀟湘八景図)も何度か見たことがある。今回は裏(日記)の展示。「釜山」「梁山」「慶州」「安東」などの地名を見つけて、へえーソウルまで、こんな道筋を通ったのか(私の韓国ツアーみたいだ)と思いを馳せる。「接待」「引出物」の文字が頻出。日記とは別条に「高麗之内裏之額之次第」が書きつけてあることにも気付いた。

 江戸の書画では、若冲の『松梅群鶏図屏風』を久々に見たような気がする。隣りの『風神雷神図』より、やっぱりこっち。あと、『風神雷神図』の向かい側のケース(中央列)に、白隠の『粉引歌』(お婆々どの粉引歌)が
あって、熱心な観客たちを背中に、飄々と粉を引いている風情なのが可笑しかった。

 リニューアルの核心は、1階12・13室の日本工芸の展示構成と展示ケース。なるほど、12室(漆工)は、部屋全体を以前より暗くし、作品に集中することができるようになった。私は、こういう今どきの展示方法は、必ずしも好きではないのだが、蒔絵や螺鈿の魅力は引き立つ。伝・本阿弥光悦作『舞楽蒔絵硯箱』は、光線の具合で、青緑色の宝石のように輝く貝片があって、夢のようだった。

 本館16室(歴史資料)は、シリーズ「歴史を伝える」の特集陳列『暦と干支』。渋川春海編『日本長暦』と高橋景保編『続日本長暦』の写本が出ている。筆跡は別人なのだろう。
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禅文化のモダンを伝える/墨宝 常盤山文庫名品展(根津美術館)

2011-01-10 00:04:45 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 特別展『墨宝 常盤山文庫名品展』(2011年1月8日~2月13日)

 新春で一番楽しみにしていた展覧会なので、いそいそと出かけたら、拍子抜けするほど空いていた。日本美術ブームと言っても、やっぱり仏像とか江戸絵画でないとダメなんですかねえ。

 実業家・菅原通済(1894-1981)が集めたコレクションを所蔵する常盤山文庫は、1942年(昭和17年)鎌倉山に創設されたが、1982年(昭和57年)から防災上の理由により公開を停止。Wikiによれば「2010年(平成22年)現在、収蔵品は移され(もしくは売却され)、建物は廃屋となり売却にだされている」そうだ。 根津美術館が常盤山文庫を取り上げるのは初めてではないはず、と思って調べたら、2003年に鎌倉常盤山文庫創立60周年を記念して、特別展『菅原通濟 粋美の世界』を開催している。たぶん見に行って、このとき初めて「常盤山文庫」という名前を知ったように思う。2005年の『墨蹟と中世漢画-常盤山文庫・根津美術館の名品-』も見ているが、まだ全然、墨蹟も水墨画も、正直なところ、どう見ればいいのか、分からなかった頃だ。

 今回は、会場に入ると最初の壁面、(右)『拾得図』(左)『寒山図』の対福、『送海東上人帰国図』、『寒山図』をさっと見て、あ、これとこれは見たことがある、と瞬時に気づく。筆を前方(画面右)に突き出すような仕草の『寒山図』は、静嘉堂文庫美術館の所蔵品。2009年の『筆墨の美』展で見ている。常盤山文庫所蔵の『拾得図』は、画面左に向けて、開いた経巻を差し出している。よく見ると、身体の向きは正対しているのに、両者の衣の裾や袖口が、同じ向きに翻っているのが面白い。画家の名前は分からないが、賛(虎厳浄伏)の文字が、なるほど同一人である。

 『送海東上人帰国図』は、たぶん根津美術館で何度も見ているので、あれ、常盤山文庫の所蔵品だったか、と認識をあらたにする。帰国する日本人僧侶に、中国の友人たちが贈った送別の寄せ書きだが、この上人が誰を指すかは判明していないのだそうだ。帰国に際して贈るわけだから、あらかじめ用意された画幅なのだろうが、大洋に漕ぎ出していく心細げな小舟(誰か船端に立っているように見える)と、岸辺で最後まで名残りを惜しむ人々の姿が、あたかも実景のように真に迫っていて、ちょっと泣ける。

 続く『寒山図』は、荒々しい線が魅力的な作品。伝・可翁筆。次の『竹鳩図』は、今回いちばん気に入った作品。薄墨で塗りつぶされた画面が、雨の近そうな重たい空気を表し、不興顔の鳩が竹の枝でうずくまっている。賛が何もないのも清々しくてよい。伝・牧谿筆。

 少し進むと、展示ケースの中に茶室の床の間を再現し、伝・趙昌筆『茉莉花図』が掛けてあった。おーこれか! 2/1からは、李安忠筆『鶉図』(国宝)に入れ替わるはずで、それまで待とうかと思ったのだが、待ち切れずに来てしまった。でも『鶉図』は何度か見ているので、こっちでよかった。茉莉花(ジャスミン)のぽってりした白い花に豊かな緑の葉(裏と表の色が違う)を取り合わせた姿は、写実的だが、垢ぬけた感覚がある。隣りの違い棚に並んだ青磁碗、黒漆の天目台、堆朱の合子など、わび過ぎない、スッキリした取り合わせともよく似合っている。

 それから墨蹟であるが、今回は、南宋の禅僧・無準師範の流れを組む禅僧で構成したという。冒頭に無準師範の『巡堂』ニ大字が掲げられていて、素晴らしくいい。「巡」の三つ点がいい。いや、シンニョウがいいのかな。これは文字通り「諸堂を巡る」の意味で、何かの行事の看板を貰ってきたのだろう、という。同じような話を聞いたことがあったなあ、と思って調べたら、五島美術館の『茶道具の精華』で見た「茶入」、これも無準師範の筆だった。同書には東福寺伝来を示す「普門院」の朱印あり。

 展示の墨蹟は「緑陰」「重陽」「梅花」など、文人的な主題で書かれたものが多く、比較的親しみやすかったように思う。当時の禅僧って、宗教者であると同時にとびきりの文化人だったんだな。イチ押しは、清拙正澄の『遺偈』(絶筆)。冒頭の三字を取って「毘嵐巻」とも「棺割の墨蹟」とも呼ばれる(※この逸話、ちょっと怖い→展覧会情報)。「斗」「神」「牛」の並んだ縦棒が気持ちよくて好きだ。

 隣室も常盤山文庫所蔵の日本絵画。3階は、鍋島と「初春を祝う茶」のしつらえが、けっこう好みだった。
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