見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

ポジティブに、過剰を求めず/今日もていねいに。(松浦弥太郎)

2011-01-23 00:26:44 | 読んだもの(書籍)
○松浦弥太郎『今日もていねいに。:暮らしのなかの工夫と発見ノート』 PHPエディターズ・グループ 2008.12

 ふだんこの種の本が並んでいる棚には、ほとんど近づかない私が、ふと本書を手に取って、たまたま開いたページに「たかだか百歩」という短文が載っていた。「百歩譲って」という言葉があるが、たかだか百歩くらい、いつでも譲れる。「僕は心の根底に、戦わないというルールを設けました」と書いてあった。

 この種の(と、括ってしまうのは乱暴だが)ライフスタイル本の主流は、楽をして幸せになるための指南書だと思っている。到達目標は、端的に「美貌」や「お金」だったり、「快適な生活」あるいは「ビジネス上の成功」や「成長」だったりもするけれど、要するに他人より少ない労苦で、他人より多くのものを得るにはどうしたらいいか、という競争原理が見え隠れするので、ふだん私はあまり近づかないのだ。

 ところが、「戦わないというルールを設けました」と静かに語る著者が気になって、その日は棚に戻した本書を、翌日、結局買いに行ってしまった。まわりに並んだ著者の本を斜め読みして、松浦弥太郎さんが、ブックストアCOW BOOKSの店長であり、2006年から雑誌『暮しの手帖』の編集長をつとめていることを知った。

 『暮しの手帖』は懐かしい雑誌だ。小学生の頃から、母の本棚に並んでいたバックナンバーをよく読みふけった。商品テストが面白かったのと、「すてきなあなたに」や「エプロンメモ」などのエッセイが好きだった。著者が編集長になって、同誌のリニューアルを手がけてから、「『暮しの手帖』が変わってしまった」「私の好きな『暮しの手帖』を返してください」などの抗議の手紙が何通も届いたというが(やれやれ)、私は著者のエッセイに、むかしの『暮しの手帖』の「ある部分」とよく似た雰囲気を感じた。それは、何を食べるか、何を着るかなど、生活に密着した具体的な「ヒント」を通じて、よりよい人生の実現を望む態度である。誰かを出し抜くためでもなく、将来の成功のためでもなく、ただ「今日もていねいに」。

 これは私にはできないなあ、とお手上げの箇所(静かなしぐさ、手足をいつくしむ)もあるけれど、共感できたのは「自分の使い道」それから「自分のデザイン」「心地よいリズム」。著者はいつも自分を観察することから始める。流行や他人にわずらわされない。思考はポジティブに、しかし過剰を求めない。

 あと、日ごろから「選ぶ訓練」をしておくと、直感や想像力が鍛えられ、巨大な古書店で膨大な古本の山を見ても「この大きな景色のあそこに宝が埋まっている」と瞬間的に分かるし、本を読んでいても、全体の中から自分に必要な言葉がパッと見つかるという。これは分かるな。私の本書との出会いが、まさにそんな感じだったから。
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