「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「声高に聴け!」と叫ばない音楽表現の極致とは

2019年10月30日 | 音楽談義

このところ毎日、日替わりメニューのように粗製濫造しているブログだがそれでも「たった1日で消えてしまうのはもったいないなあ」と、つい後ろ髪を引かれるような自信作がときどきある。

その点、さすがによくしたもので、そういうブログは数日間にわたってアクセスが途切れなく続くケースが多い。

このブログの読者は今のところ1日当たり900人前後だが総じてかなり”しつこくて研究熱心”な気がするが、その反面、気楽に書き流すわけにもいかないので良し悪しだ(笑)。

さて、そういう自信作の一例として挙げられるのがつい先日搭載
した「音と音の間の沈黙を聴く」(2019・10.25)

これについては後日談があるので紹介させていただこう。

まず冒頭に、「生きている。ただそれだけでありがたい。」(新井 満著:1988年芥川賞)の中の一節を再掲させていだだこう。その方が分かりやすいので。

                     

著者が娘に対して「自分のお葬式の時にはサティのグノシェンヌ第5番をBGMでかけてくれ」と依頼しながらこう続く。

「それにしても、何故私はサティなんかを好きになってしまったのか。サティの作品はどれも似たような曲調だし、盛り上がりにも欠けている。淡々と始まり、淡々と終わり、魂を震わすような感動がない。

バッハやマーラーを聴く時とは大違いだ。
だが、心地よい。限りなく心地よい。

その心地よさの原因はサティが声高に聴け!と叫ばない音楽表現をしているせいだろう。サティの作品には驚くほど音符が少ない。スカスカだ。

音を聴くというよりはむしろ、音と音の間に横たわる沈黙を聴かされているようでもある。
沈黙とは譜面上、空白として表される。つまり白い音楽だ。

サティを聴くということは、白い静寂と沈黙の音楽に身をまかせて、時空の海をゆらりゆらりと漂い流れてゆくということ。

毎晩疲れ果てて帰宅し、ステレオの再生ボタンを押す。サティが流れてくる。昼間の喧騒を消しゴムで拭き消すように。静寂の空気があたりに満ちる。この白い壁の中には誰も侵入することができない。白い壁の中でたゆたう白い音楽。」

以上、これこそプロの作家が音楽について語る、まるでお手本のような筆致の文章で、自分のような素人がとても及ぶところではない(苦笑)。

すると、さっそく関西のメル友「M」さんから反応があった。大のクラシック愛好家で奥様はピアノの先生である。

「最近になって第4番から第6番の3曲が新たに発見されて全6曲であることがわかりました。

グノシェンヌはサティの作った造語とのことです。

ギリシャ神話のクノックス宮殿や、キリスト教以前から存在していた神秘の宗教団体”グノーシス派”におそらくは関係があるのではないかと云われています。(以上 小原 孝のピアノ楽譜より)

早速、家内に弾いてもらって聴いてみますとゆったりと柔らかな音ですね!

確かに葬式の時に合う音楽で私も葬式のBGM候補にしたくなりました!

ただ・・・。

文面の「沈黙とは譜面上、空白として表される」ここがどうしても気になります。

スラーの多いのに気付きますがどこに空白が・・・。ご参考までに譜面を添付します。」

   

以上のような文面だったが、Mさん、わざわざ譜面まで添付してのご教示どうもありがとうございました。

たしかに、ご指摘のとおり空白はないものの音符の数が少ないことが際立っているので、著者はその点を象徴的に「沈黙=空白」として表現したかったように思いますがいかがでしょうか。

なお、本書の冒頭の文章の中で一番興味を惹かれたのが「声高に聴け!と叫ばない音楽表現」という言葉。

「魚釣りはフナ釣りに始まってフナ釣りに終わる」あるいは「オーディオはフルレンジに始まってフルレンジに終わる」という言葉があるが、人間は歳を取ればとるほど日常生活や趣味に対してシンプル志向になっていくので「仰々しさ」や「押しつけがましさ」に対して、つい敏感になりがちで何かしらの抵抗感を覚えてしまう。

たとえば、あの楽聖「ベートーヴェン」の作品でさえも、若い頃は感動も”ひとしお”だったが、人生も後半になると何だかときおり「押しつけがましさ」を感じて気分的に重たくなることがときどきある。

そう思う人はかなりいらっしゃるのではなかろうか。

その点、究極の自然体の音楽スタイルとなると、やっぱり「モーツァルト」の作品に尽きるように思う。

「声高に聴け!」と叫ばない音楽表現の極致だと思うのですがいかがでしょう(笑)。 

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