朝日新聞 2019年6月27日05時00分
■探検家・医師、関野吉晴
《先住民族とは「地図が違う」という》
私たちの地図は、海、山、砂漠など多様です。マチゲンガは海を見たことがないだけでなく、存在も知りません。彼らの地図は森と川だけでできているんです。私に「どこの川から来たの」と聞くので、「タマガワ」と言うと、「聞いたことないなあ。魚や鳥はいるの?」って尋ねられるんです。僕は「魚も鳥もいるけど、ここほどは豊かじゃない」と答えます。
来るのにどれぐらいかかるかも聞かれるんですが、東京からペルーの首都リマへ、そこからバスでアンデスを越えて舟に乗り、最後は歩いて……。早くて1週間、雨で増水すると2週間。彼らの言葉では「3」までしかないので月の満ち欠けで「新月から数えて満月の前ぐらいかな」と言うと、「隣の川と同じぐらいじゃないか。獲物も魚も少ないなら、家族でこっちに来たら?」と言われます。
《一緒に旅もした》
彼らは出無精なんだけど、僕がしつこく頼むと、みんなついて来ます。でも彼らは荷物を持って歩くのが大嫌い。昼前には「足が痛い」「疲れた」と言い出す。僕は夕方まで歩きたいから「遠くから来ているんだから」と泣き落とそうとしても、「隣の川と一緒ぐらいだろ」とか言われて(笑)。
午後2時か3時ごろ、妥協して「ここで休もう」と言うと、その辺の植物を使って30分ぐらいで小屋を作り、喜々として狩猟に出かけます。狩猟は苦痛ではないのです。いまを楽しんでいるという点では、彼らにかないません。
日本では電気、水道、ガス……と管につながれて暮らしていて、1本切れるとパニックになるけど、彼らは何にもつながれていない。自然の一部となって生きている。そうすると、自然への畏敬(いけい)の念や感謝が生まれます。目に見えない何かがあり、それを怖(おそ)れながら生きていく。そのほうが人は謙虚になり、自然をコントロールしようなどとは思いません。(聞き手・山本奈朱香)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14071650.html?_requesturl=articles%2FDA3S14071650.html&rm=150
■探検家・医師、関野吉晴
《先住民族とは「地図が違う」という》
私たちの地図は、海、山、砂漠など多様です。マチゲンガは海を見たことがないだけでなく、存在も知りません。彼らの地図は森と川だけでできているんです。私に「どこの川から来たの」と聞くので、「タマガワ」と言うと、「聞いたことないなあ。魚や鳥はいるの?」って尋ねられるんです。僕は「魚も鳥もいるけど、ここほどは豊かじゃない」と答えます。
来るのにどれぐらいかかるかも聞かれるんですが、東京からペルーの首都リマへ、そこからバスでアンデスを越えて舟に乗り、最後は歩いて……。早くて1週間、雨で増水すると2週間。彼らの言葉では「3」までしかないので月の満ち欠けで「新月から数えて満月の前ぐらいかな」と言うと、「隣の川と同じぐらいじゃないか。獲物も魚も少ないなら、家族でこっちに来たら?」と言われます。
《一緒に旅もした》
彼らは出無精なんだけど、僕がしつこく頼むと、みんなついて来ます。でも彼らは荷物を持って歩くのが大嫌い。昼前には「足が痛い」「疲れた」と言い出す。僕は夕方まで歩きたいから「遠くから来ているんだから」と泣き落とそうとしても、「隣の川と一緒ぐらいだろ」とか言われて(笑)。
午後2時か3時ごろ、妥協して「ここで休もう」と言うと、その辺の植物を使って30分ぐらいで小屋を作り、喜々として狩猟に出かけます。狩猟は苦痛ではないのです。いまを楽しんでいるという点では、彼らにかないません。
日本では電気、水道、ガス……と管につながれて暮らしていて、1本切れるとパニックになるけど、彼らは何にもつながれていない。自然の一部となって生きている。そうすると、自然への畏敬(いけい)の念や感謝が生まれます。目に見えない何かがあり、それを怖(おそ)れながら生きていく。そのほうが人は謙虚になり、自然をコントロールしようなどとは思いません。(聞き手・山本奈朱香)
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