毎日新聞2024/07/14 11:00
映画「リッチランド」の一場面。高校のフットボールチーム「ボマーズ」は、きのこ雲と爆撃機がトレードマーク=© 2023 KOMSOMOL FILMS LLC(毎日新聞)
きのこ雲は町の誇り――。第二次世界大戦中の米国で、原爆開発に従事する人々のために作られた都市があった。核開発を担った栄光の歴史は、一方で人類への脅威を生み出した。この町の現状と過去、人々の交錯する思いを追ったドキュメンタリー映画「リッチランド」の日本上映が始まり、来日して広島を訪れたアイリーン・ルスティック監督(49)は「困難でも歴史を見つめ、被害を認識することが和解を進める一歩になる」と語った。
リッチランドは米西部ワシントン州の小都市。原爆開発の「マンハッタン計画」でプルトニウムの生産拠点となった「ハンフォード・サイト」の労働者や家族のために建設された。先住民の居住地を収用してつくった施設で生産したプルトニウムは、長崎に投下された原爆「ファットマン」に使われた。
核燃料は1987年まで精製され、現在は核廃棄物の処理や放射能に汚染された環境の浄化が続く。
映画は平穏な町に目立つトレードマークのきのこ雲を映し、「戦争を終結させた」と誇る人々だけでなく、原爆による多大な犠牲を憂え、核汚染による健康影響を懸念する声も拾う。
広島市で9日に上映会があり、トークイベントに登壇したルスティック監督は「日本での上映は重要な機会で、対話の始まり。(日米の)二つの歴史がどのようにつながっているか考え続けてほしい」と話した。【宇城昇、武市智菜実】