TOCANA 2020.09.09
「トアルコトラジャ」といえば、コーヒー党には垂涎の的。世界に誇るキーコーヒーがインドネシアとともに育んだ至極の一杯だ。だが、トラジャコーヒーの産地がどこか知る者は少なく、そこに住むトラジャ族の暮らしぶりはさらに知られていない。
ところが、著名なインドネシア人フォトジャーナリスト、ハリアンディ・ハフィード氏が発表したショッキングな写真は、コーヒー愛好家以外の目も釘付けにしたようだ。
■トラジャ族の“死者との共同生活”
現在、約100万人のトラジャ族がインドネシアのスラウェシ島にある南スラウェシ州と西スラウェシ州の山間地帯に住んでいる。彼らはマレー系の先住少数民族だ。
「トンコナン」と呼ばれる特徴的な家屋をご存じの方も多いだろう。この様式は4000年前にボートでやってきた彼らの祖先が、それまで「家」というものを見たことがなかったため、自分たちの住まいをボートに似せて作ったのが始まりだという。この一見、素朴な部族は想像を絶する伝統に則って生きている――死者との共同生活だ。
臨終後、速やかに埋葬準備に取りかかる西洋文化とは異なり、トラジャ族は愛する者の亡骸を数週間~数カ月、トンコナンに保管することが多い。長い喪中を経て、いよいよ葬儀が執り行われるとなれば、数日間にわたって賑々しく葬送を繰り広げるという。トラジャ族にとって「死は、魂が宇宙を旅するための次のステップに過ぎない」と信じられているからだ。
驚くのはまだ早い。その後の“法事”こそ、彼らの死生観の真骨頂といえよう。
トラジャ族には「マネネ」と呼ばれる儀式がある。通常は3~4年ごと、7月~9月頃の収穫期に行われる。伝統的な長老(ネ・トミナ・ルンバ)が古代のトラジャ語で祈りを捧げる中、家族は先祖のミイラを墓から担ぎ出し、洗浄し、服を着せ、一服つけてやる。
墓場といっても山岳地帯なので平地が少ない。そのため、人骨は崖や洞窟の中に安置されている場合が多い。また、亡くなった身内を盛装させれば、生者に幸運をもたらすらしい。
この、黄泉の国とのボーダーが曖昧な山岳民族は、亡くなった親戚縁者たちを囲んで家族写真を撮るのが大好きだ。故人が生前愛用したバンダナや野球帽をかぶせたり、オシャレな服を着せたり。大好きだったおばあちゃんと、仲良く自撮りという若い女性の姿もある。
その後、「死後も魂は家の中に残っている」ため、トンコナンへ運ばれ、毛布にくるまれて数週間保管されるのが習わしだ。この間、家族は遺体に話しかけ、三度の食事やタバコを供えるという。弔うというより、祝うと言ったほうが適切かもしれない。
インドネシア政府は、このような奇習を観光資源と考え、プロモーションに力を注いでいる。怖いもの見たさでやってくるヨーロッパからの旅行客も多いという。「バリ島より俗化していない」と喜ぶフランス人もいるそうだ。
故人を偲ぶ流儀は人それぞれ違う。トラジャ族の風習はややグロテスクだが怖くはない。もしかすると、彼らのコミュニティでの常識は、外の世界では非常識と映るかもしれない。それでも、根底に流れる祖先への畏怖と敬愛は、写真や動画を見れば伝わってくるはずだ。掘り起こされた先祖たちの表情にも、ホッと一息ついているような安堵感が漂うのは気のせいだろうか。参考:「The Sun」ほか 文=佐藤Kay
https://tocana.jp/2020/09/post_168895_entry.html
「トアルコトラジャ」といえば、コーヒー党には垂涎の的。世界に誇るキーコーヒーがインドネシアとともに育んだ至極の一杯だ。だが、トラジャコーヒーの産地がどこか知る者は少なく、そこに住むトラジャ族の暮らしぶりはさらに知られていない。
ところが、著名なインドネシア人フォトジャーナリスト、ハリアンディ・ハフィード氏が発表したショッキングな写真は、コーヒー愛好家以外の目も釘付けにしたようだ。
■トラジャ族の“死者との共同生活”
現在、約100万人のトラジャ族がインドネシアのスラウェシ島にある南スラウェシ州と西スラウェシ州の山間地帯に住んでいる。彼らはマレー系の先住少数民族だ。
「トンコナン」と呼ばれる特徴的な家屋をご存じの方も多いだろう。この様式は4000年前にボートでやってきた彼らの祖先が、それまで「家」というものを見たことがなかったため、自分たちの住まいをボートに似せて作ったのが始まりだという。この一見、素朴な部族は想像を絶する伝統に則って生きている――死者との共同生活だ。
臨終後、速やかに埋葬準備に取りかかる西洋文化とは異なり、トラジャ族は愛する者の亡骸を数週間~数カ月、トンコナンに保管することが多い。長い喪中を経て、いよいよ葬儀が執り行われるとなれば、数日間にわたって賑々しく葬送を繰り広げるという。トラジャ族にとって「死は、魂が宇宙を旅するための次のステップに過ぎない」と信じられているからだ。
驚くのはまだ早い。その後の“法事”こそ、彼らの死生観の真骨頂といえよう。
トラジャ族には「マネネ」と呼ばれる儀式がある。通常は3~4年ごと、7月~9月頃の収穫期に行われる。伝統的な長老(ネ・トミナ・ルンバ)が古代のトラジャ語で祈りを捧げる中、家族は先祖のミイラを墓から担ぎ出し、洗浄し、服を着せ、一服つけてやる。
墓場といっても山岳地帯なので平地が少ない。そのため、人骨は崖や洞窟の中に安置されている場合が多い。また、亡くなった身内を盛装させれば、生者に幸運をもたらすらしい。
この、黄泉の国とのボーダーが曖昧な山岳民族は、亡くなった親戚縁者たちを囲んで家族写真を撮るのが大好きだ。故人が生前愛用したバンダナや野球帽をかぶせたり、オシャレな服を着せたり。大好きだったおばあちゃんと、仲良く自撮りという若い女性の姿もある。
その後、「死後も魂は家の中に残っている」ため、トンコナンへ運ばれ、毛布にくるまれて数週間保管されるのが習わしだ。この間、家族は遺体に話しかけ、三度の食事やタバコを供えるという。弔うというより、祝うと言ったほうが適切かもしれない。
インドネシア政府は、このような奇習を観光資源と考え、プロモーションに力を注いでいる。怖いもの見たさでやってくるヨーロッパからの旅行客も多いという。「バリ島より俗化していない」と喜ぶフランス人もいるそうだ。
故人を偲ぶ流儀は人それぞれ違う。トラジャ族の風習はややグロテスクだが怖くはない。もしかすると、彼らのコミュニティでの常識は、外の世界では非常識と映るかもしれない。それでも、根底に流れる祖先への畏怖と敬愛は、写真や動画を見れば伝わってくるはずだ。掘り起こされた先祖たちの表情にも、ホッと一息ついているような安堵感が漂うのは気のせいだろうか。参考:「The Sun」ほか 文=佐藤Kay
https://tocana.jp/2020/09/post_168895_entry.html