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一生に一度だけの旅 地元の人しか知らないカナダの素敵な場所 知られざる入植者たちの歴史 ──ノバスコシアとニューブランズウィック

2018-10-20 | 先住民族関連
ナショナルジオグラフィック 2018/10/19
カナディアンロッキーやプリンスエドワード島、ナイアガラの滝など、世界的な観光名所をいくつも擁するカナダ。一方で、評判の良い国や住みやすい都市のランキング上位に選ばれることも多く、美しい自然も暮らしやすい街も世界中の人々を引きつける。かつてプリンスエドワード島で暮らし、第二の故郷と呼ぶ風景写真家 吉村和敏が、知られざるカナダの魅力を写し撮る。
 カナダ東部、ノバスコシア州の州都ハリファックスからヤーマスにに向かう道はライトハウス・ルートと呼ばれている。いくつもの灯台や素朴な漁村、歴史ある港町が点在する、人気のドライブコースだ。ハリファックスから南に延びる333号線を40分ほど走ると、巨大な花崗岩の上に真っ白な灯台がポツンと立つ、ペギーズコーブにやって来る。開放感ある美しい岬を一目見ようと、この日も多くの観光客で賑わっていた。
 入江沿いに宗派の異なる3つのキリスト教会が立ち並ぶマホーンベイは、イギリス植民地時代に誕生した古いコミュニティーで、現在は多くのアーティストが暮らす村として知られている。すず細工で人気が高いアモスピューター発祥の地でもあり、大通り沿いに本店と工房がある。
 さらに10分ほど走るとルーネンバーグにたどり着く。ここは、かつてドイツやスイスから海を渡ってきたプロテスタントの人たちが築いた美しい港町。18~19世紀の建物が残された一角は、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。
 早速、町中を散策してみる。入江沿いの斜面に、切妻屋根を持つゴシック調、チューダー調の邸宅が密集して立っている。壁は赤や黄、紫など鮮やかな色でペイントされているので、町全体が随分と華やかな感じだ。海霧がよく発生する地で生きる人々の知恵だという。モンタギュー・ストリートに店を構えるクラフトショップに入ってみると、浮子(うき)の置物、貝殻のアクセサリー、海を描いた絵画など、思わず財布のひもを解きたくなるような素敵な作品が、所狭しと並んでいた。

アナポリスバレーは、土地が肥沃で気候が温暖なことから、人々は農業中心の生活を営んでいる。なかでもリンゴ栽培が盛んで、花が咲く5月下旬は里が真っ白に染まる。かつてこの地で暮らしていた1万人以上のアカディアンたちは、未開の地であったノバスコシアの東海岸、プリンスエドワード島の西海岸に追放された。
 州北西部のファンディ湾に面した一帯は、アナポリスバレーと呼ばれるなだらかな丘陵地帯。ムギやマメ、ジャガイモなどを栽培する広大な農地が広がり、リンゴの果樹園が多いことでも知られている。10月初旬、どの木もあふれんばかりの真っ赤な実をつけていた。
 この地は、カナダで初めての本格的な植民地が造られ、カナダ入植の歴史の第一歩が記された地である。1605年、フランス国王から新大陸における毛皮交易の独占権を与えられたピエール・ドゥ・モン卿は、仲間と共にこの地に最初の植民地を建設。やがて訪れたフランスからの入植者たちは、先住民の知恵を借りながら土地を開拓し、独自の文化が花開いていった。
 当時、この地区一帯は、「アカディア」と呼ばれ、ヨーロッパから新大陸への玄関口として重要視されていた。しかし、植民地争奪の戦いで完全にイギリスの領土になると、アカディアに暮らしていた人たち(アカディアン)は追放されてしまう。当時の悲劇は、アメリカの詩人ヘンリー・ワーズワース・ロングフェローの詩『哀詩 エヴァンジェリン』(岩波文庫)で知ることができる。エヴァンジェリンと、恋人ガブリエルの悲恋を描いた物語だが、ここで語られていることはほぼ事実といわれている。
 かつてアカディアンが豊かな暮らしを営んでいた、グランプレ村を訪れてみた。牧草地に抱かれるように小さな歴史公園があり、そこに石造りの教会がポツンと建っている。内部には、彼らが追放されたときの様子を描いた絵画や資料が展示されている。すぐそばに立つエヴァンジェリン像。悲しみに満ちた表情で遠くの空を見つめる彼女の瞳が印象的だ。
 ノバスコシア州の北西にニューブランズウイック州が隣接する。州都フレデリクトンは、イギリス王室に忠誠を誓ったロイヤリストたちが築いた街だ。セントジョン川沿いには、ニレの街路樹に抱かれるように、ビクトリア様式の邸宅が立ち並んでいる。いくつかの大学や短大、専門学校があるためだろう、街は若者たちで賑わっていた。
 この街の郊外に、18世紀のロイヤリストの生活を垣間見ることができる歴史村「キングス・ランディング」がある。かつてダム湖の建設によって水没が決まった村から、民家や納屋、教会などの建物を移築し、この広大な歴史村を誕生させたのだ。
 ゲートをくぐり、村の中に一歩足を踏み入れた途端、目の前に広がる世界に驚愕した。映画でしか知らなかった18世紀の村が、そのままの形で再現されていたからだ。面白いことに、ここで働く人たちも、当時の服装に身を包み動き回っている。カメラのシャッターを盛んに押しながらいくつかの農家を訪問し、昔の家具や調度品、農機具を見せてもらった。その後、学校、教会、雑貨屋、鍛冶屋、製材所と巡ったが、まるで300年前にタイムスリップしたかのような不思議な感覚を味わった。
 ノバスコシア州とニューブランズウイック州を分けるファンディ湾は、世界最大の干満差があることで知られている。その光景を間近に見られるのは、ニューブランズウイック州モンクトン郊外にあるホープウェルロックだ。訪れたのがちょうど満潮時で、高さ10メートル以上もある岩の大半が海の中に沈んでいた。しかし6時間後に訪れてみると、先程とは全く異なる光景が広がっていた。なみなみとした湾の海水はずっと先の方まで後退し、どの岩も根元まで露出した状態になっていた。
 干潮時、周辺の漁港でも、目を見張る光景が広がっている。桟橋に係留されているすべての漁船が船底をさらけ出し、露出した湾の底にぺたりと横たわっているのだ。当然、この時間帯、漁師は海に出ることが出来ない。彼らは、毎日の潮の流れをチェックし、働く時間を決めているのだろう。自然界のリズムに合わせて生きるその姿に、アトランティック・カナダで暮らす人々の心の豊かさを感じた。
この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。
吉村 和敏(よしむら かずとし)
1967年、長野県松本市生まれ。田川高校卒業後、東京の印刷会社で働く。退社後、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビュー。以後、東京を拠点に世界各国、国内各地を巡る旅を続けながら、意欲的な撮影活動を行っている。自ら決めたテーマを長い年月、丹念に取材し、作品集として発表する。絵心ある構図で光や影や風を繊細に捉えた叙情的な風景作品、地元の人の息づかいや感情が伝わってくるような人物写真は人気が高く、定期的に全国各地で開催している個展には、多くのファンが足を運ぶ。近年は文章にも力を入れ、雑誌の連載やエッセイ集の出版など、表現の幅を広げている。作品集、写真展、テレビ出演等多数。2003年 カナダメディア賞大賞受賞、2007年 日本写真協会賞新人賞受賞、2015年 東川賞特別作家賞受賞。写真集に『プリンス・エドワード島』『「フランスの最も美しい村」全踏破の旅』(講談社)、『BLUE MOMENT』『MORNING LIGHT』(小学館)、『光ふる郷』(幻冬舎)、『あさ/朝』(アリス館)、『こわれない風景』(光文社)、『ローレンシャンの秋』(アップフロントブックス)、『林檎の里の物語』(主婦と生活社)、『PASTORAL』(日本カメラ社)、『Sense of Japan』(ノストロ・ボスコ)、『Shinshu』(信濃毎日新聞社)、『雪の色』(丸善出版)などがある。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/18/083000017/101500004/
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