クーリエ2024.1.17
デイリー・マーベリック(南ア)ほか
イスラエルがパレスチナ自治区ガザでジェノサイド(大量虐殺)をおこなっているとして、1月11日、南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。イスラエルに戦闘停止の緊急措置を命じるようICJに求めている。対するイスラエル側は12日、南アの訴えは事実をゆがめているとし、大量虐殺の主張は事実無根だと反論した。
ICJとは?
世界裁判所とも呼ばれるICJは、国連の最高法的機関だ。加盟国間の問題を裁くことができ、刑事事件で個人を裁く国際刑事裁判所(ICC)とは別組織にあたる。
カタールメディア「アルジャジーラ」によると、ICJは「国連総会(UNGA)と安全保障理事会(UNSC)の選挙によって9年の任期で任命された15人の裁判官」で構成されている。
米メディア「ヴォックス」によれば、紛争当事国であるか否かにかかわらず、他国に対してジェノサイドの訴えをICJで起こすことができる。
訴えの内容
84ページに及ぶ南アの申請書には、次のように書かれている。
「南アフリカが訴えているイスラエルによる行為と不作為は、パレスチナの国民的、人種的、民族的集団の相当部分を破壊することを意図しているため、ジェノサイドの性格を有している」
そのため、ジェノサイド犯罪の防止及び処罰に関する条約に違反している、というのが同国の訴えだ。
一方でイスラエルは、この提訴を「血の中傷」(ユダヤ教徒がキリスト教徒の生き血を儀式に使っているとする、偽りの告発のこと。中世にユダヤ人迫害を正当化するために使われた)であるとし、断固として否定している。
またイスラエルの弁護団は、ガザにおけるイスラエルの作戦は、2023年10月7日にイスラム聖戦とハマスが「イスラエルの町や村を攻撃し、約1200人を殺害し、約240人の人質をとった事件に対する自然な反応である」として、南アの主張に反論している。
この訴訟にはどんな意味がある?
ヴォックスによれば、ジェノサイドの申し立てを証明することは非常に難しいという。だがそもそも注目されているのは、ICJがイスラエルに対して「ガザでの猛攻撃を直ちに停止するよう仮命令を出すかどうか」だ。
裁定が出たとしてもイスラエルは無視できるが、その場合、同盟国は戦争を支持しなくなる可能性もある。南オーストラリア大学の法学部講師、ジュリエット・マッキンタイアは次のように語っている。
「この裁判は、イスラエルに作戦を中止するよう圧力をかける理由を他国に提供することになる。政治的緊張感が非常に高いこのような状況では、重要な、確固たる客観的な歴史的記録を作ることになるだろう」
なぜ南アが動いた?
米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、国際司法裁判所でイスラエルに対してジェノサイドの訴えを起こした南アは「世界中の親パレスチナ活動家から称賛を浴びた」と報じている。
「政府に対する満足度が低い国内でも、多くの南ア国民が指導者の姿勢に拍手を送った。裁判を傍聴するための集会が組織され、デモ参加者は街頭でパレスチナの旗を振った」
アパルトヘイト(人種隔離政策)に反対する南アの闘争を率いた与党である「アフリカ民族会議(ANC)」は、パレスチナ解放機構(PLO)と深いつながりがある。ANCの指導者たちは、封鎖されたガザでの生活をアパルトヘイトになぞらえ、「自決権のために戦うパレスチナ人」を支持する姿勢を長らく示してきた。
他国の反応は
マレーシア、トルコ、ヨルダン、ボリビア、モルディブ、ナミビア、パキスタン、コロンビア、そしてイスラム協力機構(OIC)の加盟国などが南アの訴えを支持している。
一方で南ア紙「デイリー・マーベリック」は、次のように報じた。
「興味深いのは、どの国が南アによる提訴を非難し、どの国がパレスチナ人の人権を守るための提訴を支持しているかということだ。米国とドイツは、南アの訴えを『メリットがなく、逆効果で、まったく事実無根』と非難し、却下することに最も積極的である。
1904年から1908年にかけてナミビアの先住民族であるヘレロ族とナマ族に対してジェノサイドをおこない、1941年から1945年にかけてドイツでユダヤ人に対するジェノサイドをおこなった歴史を持つドイツもまた、イスラエルに肩入れし、南アの訴えには『何の根拠もない』と述べている。
ジェノサイド条約が宣言されたのは、彼らのジェノサイド行為によるものであることを考えると、興味深い主張である」
判決はいつ下りる?
アルジャジーラによれば、最初の審理は「おそらく数週間で終わるだろう」と報じている。南アの訴えを支持するか、あるいは反対するか、判決は数週間以内に下されるはずだ。
だが本訴訟はもっと長い。専門家によれば、判決が出るには3年から4年かかるという。前出のデイリー・マーベリックは、裁判に関する社説を次のように締めている。
「アパルトヘイト下で南アの大勢の人々が人権侵害に直面したとき、世界は私たちの背後に結集し、当時の政府に圧力をかけ、自由と民主主義をもたらした。今度は私たちが恩返しをする番だ。そうすることこそが真の人道主義であり、国際主義である」