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板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

バリ山行

2024-08-01 14:22:49 | 

 今回の芥川賞受賞作品の一つ、『バリ山行』は六甲山が舞台なので、これは読まなかん。六甲山からインドネシアの『バリ』?と勝手な思い込みをしてましたが、『バリ』はバリエーションの略で、登山道ではなく、道なき道を探索する山行ー行けたルートが登山道になる-です。実際には絶対やりたくありませんので、小説上で経験しましょう。

 建外装修繕を専門とする新田テック建装に途中入社して2年経つ波多は社内でのつきあいも可能な限り避けていました。しかし、六甲山への登山に誘われてからは少しずつ人間関係を築き始めます。職人肌の妻鹿さんは藤木常務の鶴の一声で。有馬への道をバリ山行で下りました。こんな山行もあるのだと認識した波多は妻鹿さんに「バリ山行」へ連れて行って欲しいとお願いします。その時は、常務が退任し、社長が会社の構造改革に臨み始めたタイミングで、会社の先行きが思わしくなく、リストラの空気が社内に流れた頃でした。山行はどうなったのか?また、自分の立場はそうなるのか?

 人間個人の行動上の主義は仕事でも趣味上でも同じように貫き通すのが趣向になるのか、それとも仕事と山は別なのか?そこでバリ山行専門の妻鹿さんの言葉が響きます。「誰にも会わずに淡々と、ずっとこんな径を歩くとき、(中略)もう、自分も山も関係なくなって、境目もなくて、みんな溶け合うような感覚。もう自分は何ものでもなくて、満たされる感じになるんだよ。」自然との一体感はゾーンに入った感覚ではないかと思います。山に身を置いてどう感じるか?現代人に一番必要なことかもしれません。

『バリ山行』(松永K三蔵著、講談社、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

 

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