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身分帳

2022-11-07 15:20:57 | 

 少年刑務所を含めて、約23年間を刑務所で過ごした山川一(はじめ)は満期で旭川刑務所を出所し、東京の身許引受人の弁護士宅へ電車で向かうところから物語は始まっています。44歳の彼は刑務所内でも問題を起こし続け、刑期が延長されるばかりでした。周囲の人たちは彼を暖かく迎い入れようとし、一般社会の一人の人間として生きていこうとしますが、今までの人生で積み重ねてきたクセというか性格のため、また、高血圧症を患い、生きづらさを感じます。彼の略歴が書かれた「身分帳」には犯罪を重ねた人生だけではなく、彼の誕生から幼少期の不幸な記載も綴られています。父は誰かもわからず、母でさえ微かなイメージしか残っていません。

 出所後5年後の平成2年10月末にアパートで病死を遂げます。わずか5年だけの社会復帰も平安な暮らしとは言えず、寂しい行路病死人となりますが、出所後に彼を支えた人々に葬儀も永代供養まで施されました。数人が集まった偲ぶ会でも彼への愛は参加者の口からこぼれています。

 人の一生なんてどういう結末になるかはわかりません。彼の人生から振り返れば、幼少期の親の愛の存在が最重要であること、学童期の学習も当たり前ながら不可欠であることが分かります。しかしながら、人生の半分程度を塀の中で暮らしても、記憶に残る人が一人でもいるのであれば、それでもいいと感じました。多くの伝記の一つとして読む機会と考えます。

『身分帳』(佐木隆三著、講談社文庫、本体価格840円、税込924円)

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