神戸にゆかりのある人の本を読もうという読書会で取り上げた1冊。兵庫区出身の灰谷健次郎の子どもたちを見る目は温かく鋭い。
新卒の女性の小学校教師・小谷先生は1年生を受け持ちます。クラスの一人、鉄三は一言も話さない。小谷先生は彼のことを知り、そして心を開こうと懸命に取り組みます。彼がハエを飼っていることから、先生もハエのことを学び、共同で研究に取り組みます。そこで鉄三は自信をつけ、ハエの博士とまで新聞に掲載され、閉じ切られた扉が少しずつ開いていきます。ちゃんと書けない綴りかたの彼の文章に先生は胸を熱くします。小谷先生も自身の弱さを認識し、悩める一人の人間として、誰もが一つの命の持ち主の子どもたちを分け隔てなく教育していきます。
両親のいない鉄三を育てているパクじいさんの心意気や小谷先生の先輩の「教員ヤクザ」と呼ばれている足立先生の視点も素晴らしい。
「人間は抵抗、つまりレジスタンスが大切ですよ、みなさん。人間が美しくあるために抵抗の精神を忘れてはなりません」
この小説の根幹には足立先生のこの言葉が宿っています。
『兎の眼』(灰谷健次郎著、角川文庫、本体価格600円、税込価格660円)