![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/50/516875428dc13ab9381cbb331f53dc41.jpg)
祖父からのはがきがアパートのポストに投函されているのを発見し、なんとも奇妙な物語が綴られます。その文面には
「お前に引き継いでもらいたいものがある。」
と書かれ、バイト生活の30歳男の圭太は遺産でもくれるのかと、祖父が住む、南国の植物が生い茂る廃村を訪れます。引き継いでもらいたいのは、「ウィジャヤクスマ」、日本名「月下美人」という花の栽培でした。すぐに引き返すはずが、「花が咲くまではここにおれ」と言われ、奇妙な共同生活が始まります。
花を引き継ぐことは、祖父の人生を引き継ぐことであり、太平洋戦争時に南方戦線での記憶がこの花の中に込められているのです。人の記憶の中に自分が存在する限りは、命のバトンタッチをすることになり、自分のルーツを知ることにもなります。書き残すよりも、脳内に残る話し言葉で伝承する、いかにも古代風ではあるが、祖父の想いは廃村の空気よりも重く、祖父にとっては楽園の継承こそが生きた証しだったのではないでしょうか。
『楽園』(夜釣 十六 著、筑摩書房、本体価格1,200円) 第32回太宰治賞受賞作。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます