語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『お茶屋遊びを知っといやすか』

2013年05月26日 | ノンフィクション
 『お茶屋遊びを知っといやすか』の著者は山本雅子となっているが、制作プロデューサーの風間純子による聞き書きである。
 風間は、茶屋「山本」の女将に「本物の京都」を見つけ、「一芸に秀でたお姉さんたちの本当の美しさ」に鼓舞され、癒され、自分を取り戻すことができたらしい。
 この体験を同性に分かちたい、という意図をあとがきに記している。
 要するに、本書は女性の女性による女性のための祇園物語だ。

 とはいえ、男性にとっても十分におもしろい。
 祇園甲部に82軒ある茶屋の経営の極意を垣間見ることができる。
 接客術さえ学ぶことができる。
 話題豊富、非常に穏やか、客を絶対に怒らせない、というのが祇園の芸妓なのだ。そしてユーモアにウィット。
 古都の四季の移ろいに祭りや行事、季節ごとの味覚となれば、男女の差はない。

 惜しまれるのは文体である。
 私たちは聞き書きの傑作、竹中労『鞍馬天狗のおじさんは-聞書アラカン一代-』を持っている。あるいは佳作、宇佐美辰一・述、三好広一郎/三好つや子・聞き書き『きつねうどん口伝』をもつ。
 いずれも語り口の妙が地の文にも生かされ、言葉の節々に語り手の人となりが滲みでている。
 この点、本書はいささか整理されすぎていて、「山本のおかあさん」の地声が聞こえてこない。京都弁を、わずかに挿入される会話の場面に限定して使ったせいで、どこかしらよそよそしい。舞台が京都、しかも祗園、という気がしない。
 地の文にも京都弁を適宜取りいれるべきであった。さすれば、祇園がかもしだす「はんなり」の魅力が、もっとしっとりと伝わってきたはずだ。

□山本雅子『お茶屋遊びを知っといやすか』(広済堂出版、2000)
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