語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】個人番号報道に見るメディアの「国家観」 ~マイナンバー~

2013年05月31日 | 社会
 (1)個人番号(マイナンバー)法成立。2016年1月施行。
 共通番号制1970年代初め、旧・行政管理庁が旗振役となって、行政機関での利用を目的とする「事務処理用統一個人コード」を打ち出したことに始まる。「少額貯蓄等利用者カード(グリーンカード)」制度の導入が決まったが、実施前に廃止に追い込まれた。
 1990年代末、住民基本台帳法が改正され、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の住民票コード導入が決まった。個人確認情報(住民票コード・氏名・住所・生年月日・性別)は、年金支給や資格取得などの行政事務に本人確認のため使用されていいる。
 共通番号の導入は、第一次安部政権(2006~07年)で「消えた年金問題」と絡めて浮上した社会保障番号制度を含め、これまで目的や名称を変えつつ構想されてきた。そして、その都度国民からの強い批判にさらされ、官民をまたいだ汎用的番号としては使われてこなかった。
 今回の個人番号は、社会保障、税、災害の3分野でまず導入が始まり、将来的な利用範囲と、管理される個人情報の多様さという点で「総背番号」となるのは間違いない。スタートする2016年に番号を取り扱う団体数は、官民併せて150万を超える。40年をかけた政府の集大成だ。

 (2)マイナンバー法すなわち「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」では、個人番号は米国の社会保障番号(SSN)と異なり、申請に基づいて取得するものではなく、住民票に強制的に付番される。
 中長期滞在の外国人を含めて、「通知カード」と運転免許証などで本人確認を行う制度となる。
 住民側のメリット・・・・<例>給付申請等を行う際に求められてきた住民票や所得証明の添付が不要になる。
 行政側のメリット・・・・<例>社会保障・税分野を通じて、現在より正確な所得把握が可能となる。
 では、どれほどの効率化が見込まれているかというと、具体的な試算は行っていないのだ。
 システムの初期投資に2千~3千億円、運営費に年数百億円が見込まれる。これとは別に2百億円の住基ネットの運営費がかかる。投資に見合うシステムなのか【注】。

 (3)米国で1936年に導入されたSSNは、納税番号としてだけでなく、民間も含めた社会の幅広い分野で利用されてきた。ところが、インターネット時代を迎え、不正な還付金請求など本人になりすます犯罪が多発。2006~08年まで、千万人以上がなりすまし犯罪に遭い、損害額は年500億ドルを超える。2011年に入り、内国歳入庁や国防総省などは独自番号導入に転換し始めた。
 韓国でも、番号を利用した年金や失業保険の不正受給など犯罪が多発している。
 こうした状況の中で、日本はあえてマイナンバーに踏み入ることになるわけだ。

 (4)新聞の社説の見出しを並べる限りでは、各紙の論調は、全国紙はほぼ賛成派、ブロック・地方紙は反対もしくは慎重派と分類できる。ただし、社説と異なる記事は、社説上の賛成派の全国紙にも、社説上の反対派のブロック・地方紙にも見られる。
 4月21日朝刊の毎日は、個人番号法を根拠に、個人番号の取り扱いが適正かどうかを監督する「特定個人情報保護委員会」が取材活動に介入する余地があることを指摘した。個人情報保護法(2003年成立)では、報道機関への情報提供に対しては主務大臣の権限が講師制限される規定があるが、個人番号法案にはそれがない、というわけだ。
 個人情報保護法が全面施行された2005年4月に入り、政治家や官僚による個人情報保護を理由にした不祥事隠しが相次いだ。同法には除外規定があるにも拘わらず、報道機関への情報提供をためらう「過剰反応」「萎縮効果」が社会問題化したのだ。日本新聞協会は、根本的な見直しを求め、当面の手当としては報道機関への情報提供を規制の対象外とするよう求める意見を発表している。
 マイナンバー法案が抱える、表現の自由に与える悪影響の問題をしっかり指摘していくべきだ。

 (5)ドイツでは、1984年に、行政分野を横断する形で個人識別番号を持つことについて、違憲の判断をした。
 英国では、2010年に誕生した保守・自由民主党政権が、「国家は必要以上に国民の個人情報を収集してはならない」「国民の人権を踏みにじる制度」などとして、労働党政権が決めた「国民IDカード制」を廃止する法案を成立させた。
 漏洩した個人情報の回収は不可能だ。
 マスメディアは、国家観も問われている。

 【注】「【官僚】マイナンバーで焼け太る官僚とITゼネコン

□神保太郎「メディア批評第回」(「世界」2013年月6号)の「(2)個人番号報道に見るメディアの「国家観」」
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