語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~

2013年05月01日 | 社会
 (1)生鮮食品の原産地表示は、「長いところルール」を適用すべきだ。
 ただし、これでも問題点は多い。
 <例>菌種栽培シイタケ・・・・中国で種を植え付けた(植菌した)原木を数日間で日本に輸入し、日本で栽培すると、「日本で育った期間が一番長く」なる。長いところルールでも、堂々と国産表示ができる。

 (2)畜産物の原産地は、既に長いところルールが採用されている。生まれはどの国だろうが、日本で長く肥育されれば国産になる。
 <例>和牛・・・・豪州には、和牛品種がいる可能性が高い。現行JAS法では、豪州生まれの和牛が子牛で生体輸入され、日本で長く肥育されると「国産和牛」として販売できる。むろん、日本生まれ和牛より安い。
 その結果、日本の和牛農家は大打撃を受ける。
 そこで農林水産省は、2007年、「和牛等特色ある食肉の表示に関するガイドライン」を作った。「日本生まれの日本育ちの和牛品種のみが和牛と表示できる」とした。
 和牛は守った・・・・形になったが、和牛でなければ、豪州であろうがどの国で生まれても、日本で長く育てば国産牛になってしまう。

 (3)水産物は、漁獲した船籍が産地になる。
 <例>マグロ・・・・太平洋の同じ場所で獲っても、日本籍の船が獲れば日本産、韓国籍の船が獲れば韓国産になる。

 (4)農産物は、もっと根が深い。国産の種の栽培が減ってきているのだ。
 どの国から種を輸入しようが、栽培した場所が日本であれば国産になる。
 コメなどの農産物の多くが国産(都道府県)表示で販売されている。自給率も、カロリーベースも生産額も70~80%と非常に高い。純粋に国産の農産物が流通している、と消費者は錯覚している。
 しかし、「原産地表示」が実態を隠している。

 (5)天候不順、新興国台頭で食糧不足になったとき、種子を握っているものは強い。
 米国がモンサント社を使って遺伝子組み換えで世界制覇をたくらんでいるのは、「種子を持ったら勝ち」という意識が強いからだ。
 日本は、いまや野菜の国内採種は全体の1~2割だ【注1】。
 生産者がいないのは、栽培農家だけではない。種苗農家は壊滅状態なのだ。

 (6)種をほとんど輸入に頼っているのに、こんどはTPPに参加して栽培まで頼ろうとしている。コメは米国、牛肉は米国・豪州、乳製品は豪州・・・・というように、外国生まれの外国育ちの食糧で日本を埋め尽くそうとしている。食糧生産の放棄は、狂気の沙汰だ。
 この問題は、食の安全にも大きな影を投げかけている。
 2011年6月、ドイツを中心に大腸菌の食中毒が発生し、4,000人の発症者と52人の死者を出した。原因食材はスプラウトだった。欧州食品安全機関は、「エジプトから輸入した種子が感染源の可能性が高い」と発表した。
 食のグローバル化は、食の危険性を拡大する【注2】。

 【注1】記事「国産野菜、生まれは海外〈食卓のタネあかし:上〉」(2012年12月25日付け朝日新聞)

 【注2】
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後
【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド

□垣田達哉「生まれも育ちも国産がいいけれど国産種子はいまや絶望的 ~食のグローバル化の中で、実態を反映しているとは言えない原産地表示。冷蔵庫の野菜の種子はどこから?~」(「週刊金曜日」2013年4月26日号)

   *

 韓米FTAを見ると、GM食品の表示や安全性評価をめぐって、日本の制度を緩和しなければならなくなりそうだ。
 韓米FTA締結交渉に入る前提条件として、米国は韓国政府に「遺伝子組み換え作物の覚書」を取り交わすことを求め、韓国政府は、2007年に了承した。その結果、2008年の表示改正(GM作物を使ったすべての原料を表示させるもの)が「覚書」によって採択不可能になった。安全性評価についても、韓国政府が環境リスクの評価をしようとしたところ、「覚書」によって認められなかった。
 韓国の衛生植物検疫措置に関する委員会(SPS委員会)に米国側から介入することもできる。米国の安全性評価が韓国に押しつけられている。
 「韓米FTA以上に米国に有利なものにする」と米国交渉者が述べるTPP。
 食の安全が脅かされる。

□山浦康明(食の安全・監視市民委員会)「韓国FTAの先例に見るTPPの危険度」(「週刊金曜日」2013年4月26日号)

 【参考】
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン