語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】電力、経産省、メディア・・・・の嘘、今も

2013年05月30日 | 震災・原発事故
 (1)5月22日付け日経新聞1面トップは、「中部電、東電と発電所建設」という記事。
 設備投資に回す資金調達に困った東京電力は、中部電力と共同で(出資比率:東電1割、中電9割)石炭火力発電所を建設し、発電した電力の3割を中電が引き取る。中電は、引き取った電力を、自社管内だけでなく、一部を東電管内でも販売する。
 華々しい扱いだが、こうしたことがニュースになること自体がおかしい。

 (2)日本の電力市場は、2000年から段階的に自由化された。いま、50kW以上の工場やオフィスには、大手電力会社がその担当する地域を越えて供給するのは自由だ。
 中電が東電管内の工場に電気を売っても、一向にさしつかえない。
 今回のニュースも、本来なら、ちっともビックリするような内容ではない。

 (3)だが、実際には越境供給が実現しているのは1件だけだ。中国電力管内にある広島のスーパー「イオン」に九州電力が供給しているのみ。
 越境して競争することはタブーになっている。
 日経紙さえ、この事実を指して、「『暗黙の了解』があるとされ」と書いた。暗黙であろうが、なかろうが、かかる合意が本当に存在すれば、「地域分割カルテル」だ。独禁法違反だ。

 (4)50kW以上の大口向けが市場の6割を占めている。これをもって経産省は、「日本の電力市場の6割は自由化されている」とうそぶいた。
 が、それは建前にすぎなかった。何故か。
 経産省が、天下りを通じて電力会社などと完全に癒着し、決して競争を促すような政策を採らなかったからだ。

 (5)電力会社の大本営発表を真に受けた新聞は、ご丁寧にも、「地域独占に風穴」という小見出しをつけた。恥の上塗りだ。
 このたびの記事は、実のところ、今もなお「越境競争自粛」という暗黙の秩序がしぶとく生き残っている事実を示す。そして、それを経産省が引き続き容認する立場を堅持している事実を示す。

 (6)東電は、カネがなくて困っている。そこで、中電が9割の資金を出した。しかし、中電が引き取る電力は何故かわずか3割で、しかもその一部しか東電管内で販売しない。7割は東電が引き取り、他の電力と混ぜ合わせて高い料金で売る・・・・。
 ヘンではないか?
 東電は、被災者のための損害賠償、汚染水処理があり、カネがない。それならわざわざ1割出資するより、中電に10割やらせたほうがよい。中電が10割の電力を買い、その大半を東電管内で直売すると、電力料金は東電よりかなり安くなるはずだ。
 どうして、そうしないのか? ヘンではないか?
 理由は簡単だ。そうすると、東電が困る。
 それだけではない。これを認めると、他の電力会社も東電管内になだれ込み、競争が始まる。それが他の電力会社管内にも及び、これまでの「暗黙の了解」が壊れて、9電力会社間の本格的競争が始まるから、困るのだ。
 そこで、他社管内で直売する時は、その地域を担当している電力会社が出資するなどして関与し、外部からの販売は一定の量にとどめ、決して価格競争が起こらないようにするという措置がとられたのだ。そう見れば、今回のプロジェクトの複雑な構造が明快にわかる。

 (7)本来なら、東電の出資を許さず、「もっと競争せよ」と経産省が言えばよい。支配株主である経産省は、それくらいのことはすぐできる。
 経産省はしかし、「もっと競争せよ」とは絶対に言わない。
 電力会社の「暗黙の了解」に加担する経産省。
 電力事業の規制権限を、一日も早く経産省から切り離さなければならない。

□古賀茂明「電力、経産省、メディアの嘘 ~官々愕々第65回~」(「週刊現代」2013年6月8日号)
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