語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~

2013年05月24日 | 社会
 (1)2000年代にめざましい経済発展をとげた中国は、2010年にGDP世界第2位に躍り出た。10年以内に米国を抜いて世界1位となると予測されるが、はたして経済発展を続けることができるか。
 懸念される最大の理由は、中国経済が共産党の強大な統制下にある政治体制(「政経一体システム」)への不信だ。多くの資本主義国家が「国家の役割は最小限」という考え方を採用する中、中国は独特の経済システムを採用している。
 政経一体システムの究極の目的は、経済発展よりも共産党体制を安定させることだ。その経済運営を信頼できないのは当然だ。
 経済政策の意思決定は、ごく少数の党幹部によって行われる。透明性が非常に低い。日本をはじめ欧米諸国が不信感を抱く。

 (2)政経一体システムの特徴の一つは、国営企業の存在だ。党や政府と同様、賄賂や汚職が蔓延している。そうした国営企業ばかり成長させ、民間企業を育てようとしない(「国進民退」)。
 500位までの世界企業ランキング(2012年)に69社の中国企業が入った。その数は日本を上回り、米国に次ぐ。しかし、69社中、非国有企業は5社しかない。
 国有企業中心の非効率な産業構造からの脱却は、今後の経済発展に必要だが、遅々として進まない。政経一体システムの中で、規制や既得権の壁に阻まれ、民間企業が自由に活躍し、成長する環境が整備されていない。
 国有企業がさらにグローバル化し、外国人が主要株主になる状況になれば、株主の意向と共産党の方針が衝突する事態が、確実や発生する。
 経済市場の整備、特に対外開放はあまりにも不十分で、こうしたハードルを越えられないかぎり、中国が真の一流経済大国になることはない。

 (3)政経一体システムの下では、経済構造の破綻は、共産党体制の崩壊と同じ意味をもつ。
 今でも不満を持った地方の農民、出稼ぎ労働者、定職のない若者らによる小爆発は数多く発生している。
 ただ、中国の経済発展の恩恵にあずかっているのは、一部既得権益層だけでなく、低所得者層の生活レベルも着実に上がっている。この5年間、最低賃金はほぼ2倍に上がった。個別問題で暴動が起きても、共産党体制を転覆させるような運動に発展することは考えにくい。

 (4)政経一体システムの最大の利点は、スピードと実行力だ。リーマンショック(2008年)後、中国は4兆元の内需拡大策をはじめ、大規模な政策を次々と実施した。1年後には経済成長率を10%近くまで回復させるなど、短期間でV字回復を実現させた。
 2000年代の経済成長は、大都市に加え、地方の発展に支えられてきた。中央政府が大方針を示し、人事権を含む圧力の下で、地方政府の間で熾烈な成長率競争が生まれ、中国全体も潤った。
 中国式中央集権と地方間競争の両立は、政経一体システムの下でしか生まれなかった。

 (5)投資の主な担い手は地方政府だ。借金(「地方債務」)を元に大規模な投資を行っている。一昨年で10.7兆元の地方債務があった。中央政府も早い段階から大きなリスクとして問題視している。
 中国では、重要なインフラの整備は進み、労働コストや人民元レートの急速な上昇などにより、輸出の価格競争でも優位に立てなくなってきた。ために、数年前から、投資・輸出依存の成長から、内需・消費重視へと経済成長の「質」を転換させようとしている。ただ、中国のGDPにおける消費のシェアは47%で(2010年)、先進国の80%に比べると非常に低い。思うように伸びていない。
 消費伸張のためには所得再分配を含む格差問題の是正が急務だが、社会保障を実現させるには莫大な財源が必要だ。税制改革しようにも、既得権層の反発があって、非常に難しい。
 「量」重視から「質」の向上を実現できるか。これが中国経済の課題だ。

 (6)中国経済は多くの弊害を抱えているが、習近平体制が続く今後10年は、高い経済成長を維持し続けるだろう。
 その最大の理由は、いまだ「発展途上国」の側面が色濃く残っているからだ。GDPは世界第2位となったが、一人当たりGDPは5,400ドルで、181ヵ国中91位だ。日本の一人当たりGDPの12%にすぎない額だ。基礎的ニーズもまだ満たされていない。まだ成長する余地がある。
 まだ必要な公共投資の対象は充分に残っている。北京や上海など大都市でも、生活インフラの整備は全く不十分だ。近年の経済成長を支えているのは、発展が遅れていた中西部や東北部で、こうした地域は今でも2桁の成長率を維持している。

 (7)今後、経済成長を遂げている中国経済を過小評価するべきではない。日本と中国は、経済面では切っても切れない関係にある。貿易額をみても、日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとっても日本は最大の輸入相手国だ。
 中国の輸出利益の6割は加工型の貿易によるものだ。日本から基幹部品を輸入し、中国で組み立てて輸出している。日本企業抜きでは輸出できないサプライチェーン構造はなお強固だ。
 実際、東日本大震災の影響で日本からの輸入がストップしたため、自動車など多くの産業が大打撃を受けた。
 
 (8)外交上の対立には、過剰に反応せず、冷静に対応すること。
 この10年間、日本は輸出拠点の「工場」として中国経済を位置づけてきた。賃金や人民元レートが上昇している現状からすると、もはや純粋に工場としての役割を求める時代は終わった。今は、中国の「巨大市場」をどう攻略するか、真剣に考えるべきだ。
 今後、中国人消費者の嗜好に合った製品を提供する必要がある。
 中国側から期待が高い省エネ・環境技術などの分野はもちろん、医療介護サービスや安全安心な食品など、豊かになった中国人の需要を取り込めるビジネスは数限りなくある。

□語り手:柴田聡(財務省調査室長)/聞き手:江上剛「経済 政経一体システムへの懸念 ~中国 知られざる異形の帝国~」(「文藝春秋」、013年6月号)

 【参考】
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
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