語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】猪瀬直樹東京都知事の「イスラム侮辱」問題 ~国益と国民益を毀損~

2013年05月21日 | ●佐藤優
 (1)2020年夏季五輪招致に係る猪瀬直樹・東京都知事は、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「イスラム諸国は互いに喧嘩ばかりしている」と口走った。イスタンブールを意識した発言で、4月27日付け同紙が伝えた。
 さらに、「イスラム諸国が共有しているのはアラーだけで、互いに喧嘩ばかりしている。そして階級がある」とも語った【注1】。
 当初、猪瀬は「私の真意が正しく伝わっていない」と開き直っていたが、ニューヨーク・タイムズ側から「記事の取材に絶対の自信を持っている。録音もある」と反論され、謝罪に追い込まれた。

 (2)トルコを公式訪問した安倍晋三・首相が、5月3日、得る土案・トルコ首相と会談した際、侘びを入れざるを得なくなった【注2】。 
 東京都知事の不祥事に、日本国内閣総理大臣が対応したのだ。前代未聞の事態だ。

 (3)トルコとの関係がとりあえず政治的にはこれで処理されたとしても、まだ深刻な問題が残っている。
 猪瀬は「イスラム諸国が共有しているのはアラーだけで、互いに喧嘩ばかりしている」と、中東、中央アジア、インドネシアなどを含むイスラーム世界全体を侮辱した。猪瀬発言は尾を引く。

 (4)5月2日の定例記者会見で、猪瀬知事は「誤解されるところがあったとすればお詫びする。イスラム圏の方々とも近々話をしていく」と述べた。会見は1時間に及び、「あんまり終わった話に触れても仕方がない」と発言する場面もあった。一方では、謝罪後にツイッターで「誰が味方か敵か、よくわかったのは収穫でした」と記したことについて、「一生懸命励ましてくれる人とそうでない人がいるんだなと、それだけのこと」と釈明した【注3】。
 猪瀬は、事態の深刻さをまったく理解していない。猪瀬は、政治家(東京都知事)であるのみならず、大御所作家(大宅壮一ノンフィクション賞選考委員)だ。国際基準では、知識人と見なされる。
 政治家の失言は、無知による場合と、偏見による場合に分かれるが、知識人である猪瀬の発言は、イスラームに対する偏見に基づくものだ。
 ツイッターの力を熟知する猪瀬は、自らの発言がイスラーム過激派に与える影響について、どう考えているのか?

 (5)猪瀬発言によって、日本でテロが起きる可能性が排除されなくなった。
 猪瀬は、日本国家の国益を毀損し、日本国民の安全に不安を与える存在となった。
 日本国家益と国民益のため、世界の平和と安定のため、猪瀬は一刻も早く公職から去るべきだ。

 【注1】記事「都知事「首相、猪瀬氏発言を陳謝 五輪招致めぐり、トルコ首相に」(2031年4月29日付け朝日デジタル)
 【注2】記事「「首相、猪瀬氏発言を陳謝 五輪招致めぐり、トルコ首相に」(2031年5月3日付け朝日デジタル)
 【注3】記事「猪瀬都知事「これからの教訓に」 五輪招致、失言改めて謝罪」(2031年5月3日付け朝日デジタル)

□佐藤優「「イスラム侮辱」問題は、まだ終わっていない ~佐藤優の人間観察 第22回~」(「週刊現代」2013年5月25日号)

 【参考】
【社会】チェチェン人兄弟はなぜアメリカでテロを起こしたのか ~民族問題~
【読書余滴】佐藤優&鈴木琢磨の、朝鮮人やイスラム教徒の時間軸と日本人の時間軸との違い
【読書余滴】佐藤優&宮崎正弘の、言語・民族・国家 ~グルジアと中国~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(3) ~トルキスタン~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(2) ~ソ連解体の始まり、ナゴルノ・カラバフ紛争~
【読書余滴】佐藤優の民族問題講義(1) ~アゼルバイジャン~
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