事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」ピーター・トライアス著 早川書房

2019-01-10 | 本と雑誌

もしも第二次世界大戦において枢軸国側が勝利していたら……という歴史改変SF。この種の作品は土台の歴史認識がよほどしっかりしていないと成立しないが、このUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパンじゃないよUnited States of Japanだよ)はこう説明している。

枢軸国側が勝ったのは、ソ連に侵攻したナチス・ドイツの要請に日本が呼応し、ノモンハンの反省をもとに、ソ連東方軍を満蒙にはり付けさせるために日本軍はそこから一歩も動かなかった。ためにナチスのモスクワ占領は成功し、日独でソ連を分割……

逆に、現実は「USA」という禁断のゲームのなかで語られる。ドイツの要請を無視し、日本は仏印に侵攻。ために米英の反発をかって開戦時期が大幅に早まり……

つまり、日本軍が仏印に向かうか満蒙を固守するかが歴史の分かれ目で、あとはバタフライエフェクトによって大幅に歴史は変わってしまったとしている。とても、納得できる話です。

戦争に勝った日本はアメリカ西海岸を統治する。全体主義国家が勝ったわけだから、天皇絶対の恐怖政治が敷かれている。皇国に刃向かう者はテロリストとして排除され、キリストの教義は完全に否定されている。しかし医学や科学の発達は著しく、巨大なロボットが切り札として戦闘に参加するようになっている。

主人公の男女がなんともいい。特高で天皇の無謬を信じて疑わない槻野(つきの)昭子と、凡庸で出世コースからはずれ、女のことしか考えていない(ように見える)石村紅効(べにこ=ベン)大尉のコンビが、ある目的をもって突き進む。

作者ピーター・トライアスはアジア系アメリカ人。日本文化に耽溺し、深作欣二北野武、そして宮崎駿押井守を敬愛し、大江健三郎三島由紀夫を読みこむあたりの日本愛が爆発。しかし日本合衆国のありようが、北のどこかに似通っているからか、ネトウヨたちからはボロクソに言われております(笑)。

日本の現在を客体化するという意味でこのSFは最高のテキストだったかもしれない。「機動警察パトレイバー」や「パシフィック・リム」の世界に草薙素子が登場すると考えれば、急に読みたくなる人もいるのではないでしょうか。わたしは最高に楽しめました。ラストはちょいと泣ける。

コメント
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