事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ユダヤ警官同盟」(The Yiddish Policemen's Union)マイケル・シェイボン著 新潮文庫

2010-10-15 | ミステリ

Yiddishpolicemensunion  なにしろ設定が絶妙なのだ。第二次世界大戦後、“アラブに敗れて”流浪するユダヤ人たちは、アラスカの一部に居留する。はるかエルサレムへの憧憬をいだきながら、彼らは(歴史上くりかえされたように)人口を増やし、居留地からにじみ出し、あふれ出す。必然的に犯罪も増大し、必然的に名探偵も登場する。

安ホテルでヤク中が殺された。傍らにチェス盤。後頭部に一発。プロか。時は2007年、アラスカ・シトカ特別区。流浪のユダヤ人が築いたその地は2ヶ月後に米国への返還を控え、警察もやる気がない。だが、酒浸りの日々を送る殺人課刑事ランツマンはチェス盤の謎に興味を引かれ、捜査を開始する―。
(「BOOK」データベースより)

 そのヤク中と言葉をかわしたことはないが、同じホテルに住んでいたランツマンは、周囲に止められながらもなぜか捜査にのめり込んでいく。

 生活状況は最悪。捜査方法は行き当たりばったり。別れた妻が上司として赴任し……優秀な刑事でありながら、なにかが破綻しているランツマンも魅力的だが、彼をとりまくユダヤ人の、ユダヤ人による、ユダヤ的状況が味わい深い。自虐的言辞をふりまき、他民族(アラスカなので、旧称でエスキモーとか)と侮蔑し合うやりとりなど、やるなぁ。

 この犯罪の特徴が、その動機として“被害者が聖人だった”ことに起因する意匠もおみごと。ユダヤ的なその意匠をはぎとってしまえば、かなりストレートなハードボイルド・ミステリなのもうれしい。

 文体が、驚くほど現代文学的なので(シェイボンはなにしろ純文学リーグの人だし)好き嫌いはわかれるかも知れない。題名の皮肉さも受け入れられるかなあ。

でも、この事件が、以下のできごとが現実化したパラレルワールドで起こったことを前提に考えると面白そうでしょう?

・1946年にベルリンに原爆が投下されている。

・満州国が存続している。

ノーマ・ジーンは米大統領と結婚し、マリリン・モンロー・ケネディとなっている。

オースン・ウェルズがコンラッドの「闇の奥」を映画化している(「地獄の黙示録」のことです)

……現実の世界では、このミステリをコーエン兄弟が映画化とか。ユダヤっぽい!

コメント
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