日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

「逝く人に」1首

2020年04月18日 | 日記
 昨年の夏、亡くなる父の手を握って最期を看取りましたが、息を引き取った父に「お父さん」といったあと、やや狼狽して、亡くなったあとも聴覚はしばらく残るとは聞いていたものの、語りかける言葉もすぐには出てこず、施設の担当者を呼びにいきました。
 亡くなる数日前、夜中に起きたときに、背中をさすりながら、育ててもらったお礼と、あとはちゃんとするから任せてくださいという約束を、言葉にすることができ、父もうなづきながら聞いてくれていました。
 でも亡くなるときの情景を何度も思いだし、最後の数日は息苦しそうなときもあったので、言ってあげたかった言葉を考えながら、語りかけています。
今日は歩きながら、「お父さん、息が止まっても、声は聞こえているでしょう。長い人生、お疲れ様でした。何日か、息苦しくて、きつかったですね。あとは任せて、しばらくゆっくり休んでください。そのあとは、ご先祖様といっしょに、子孫をまもってくださいよ」と、そんなことを語りかけました。
 気になって思い出すことはもう一つ、亡くなる数時間前だったか、数日前だったか、急に近くにいる私を呼んで、しっかりした声で「便所!」と言いました。もう動けそうにないと思ったので、「紙おむつをしているから、そこに出していいよ」と言いいましたが、そのあとどうしたか、おむつにしたような記憶はなく、スタッフがすぐ来た記憶もなく、なぜか、よく覚えていません。思い出すたびごとに、無理をしてでも、起こしてトイレに連れて行ってもらったほうがよかったかな、父は便意で気持ちが悪かっただろうなと思い、「お父さん、ごめんね」とつぶやいています。
 今日もこんなことを考えながら、1首詠みました。

逝く人に 語らざりしが 悔まるる 長き一世(ひとよ)を 労(ね)ぐべかりしに
(亡くなって行く父に、「お疲れ様でした、ゆっくり休んでください」と、長い人生をねぎらう言葉をかければよかったのにと、悔やまれます)

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