日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

「魂触り」の歌(『和歌集 くりぷとむねじあ』より転載)

2012年02月29日 | 日記
 折口信夫=釈迢空に、「鎮魂=魂触り」説があります。詳しい話は、ウィキペディア「鎮魂」の項目などでお調べください。つぎのいくつかの歌は、「霊魂」信仰、「魂触り」信仰に基づく歌です。

 「一の巻、出会い」から2首。

たまふれて こころおどろき みあぐれば いもがまなこに みいられてあり
魂触れて 心驚き 見上ぐれば 妹がまなこに 見入られてあり
(ふとしたときに、何げなく顔をあげると、あなたと視線が合って、私は心の奥底まで見通されたように、はっとしました)

いもやきく わがこいおれば ことたまの ひびきわしげし あくがるるほど
妹や聞く 我が恋ひをれば 言霊の 響きは繁し 憧るゝほど
(あなたには聞こえますか。私の恋の思いは、魂が抜け出すほどで、鬱蒼たる森のような言葉となって広がっていきます)

 「二の巻、戯れ」から1首。

よよをへて たぐりあいたる たまのおを またいつのひか みうしのうべき
世々を経て 手繰り合ひたる 魂の緒を またいつの日か 見失ふべき
(長い時間を経て、ようやくあなたという魂にめぐり会いました。この運命の糸は、いつまでもけっして見失うことはありません)


 「三の巻、行き違い」から2首。

よしわれら みわおちこちに へだつとも たまおうさちを かさねゆかまし
よし我れら 身は遠近に 隔つとも 霊合ふ幸を 重ね行かまし
(私たちはこの人生を別々に生きることになるかもしれませんが、魂の世界で会う喜びを重ねていきましょう)

あくがるる こころかたみに たまおうわ さだめなるべし なりゆくままに
憧るゝ 心互に 魂合ふは 定めなるべし 成り行くまゝに
(お互いに魂があこがれ出て、どこかで出会うのは、定めにちがいありません。どのようにでも成り行きにまかせましょう)

 「鎮魂=魂触り」説とは、簡単に言うと、自他(人やモノや神)の魂が遊離したり、交流して触れることで、心理的、身体的、霊的(スピリチュアル)な現象が起こる、という信仰、実践です。
 魂が抜けることを、シャーマニズム研究では「脱魂(エクスタシー)」といいますが、古語では「あくがる」といいます。
 言霊とは、人が言葉を発するときに、その力として発動するものと信じられたものです。
 「恋」は、「恋う」の名詞ですが、それは相手の魂を自分のものにしたいと「乞う」ことです。相思相愛のことは、「霊合ふ(たまあう)」と表現されます。
 「魂の緒」とは、死んだときに途切れるとされたもので、「シルバーコード」の対応語ですが、3つめの歌では、「魂の軌跡」という意味で、用いました。

 どれも初期の歌で、技巧的にはシンプル、調べもナイーブですが、ただの現代的な恋歌ではなく、こういう「古代研究」を下敷きにしたものです。

***『歌物語 花の風』全文掲載2011年2月28日gooぶろぐ***
***『和歌集 くりぷとむねじあ』全文掲載2011年10月26日gooぶろぐ***




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春の雪、3首(『和歌集 くりぷとむねじあ』)

2012年02月25日 | 日記
 歌物語、和歌集にある歌のうち、まだ解説をしていない初期のものがたくさんありますので、季節や状況に応じたものを、少しずつ再録していきたいと思います。
 
 つぎの3首は、15年ほど前、和歌を本格的に読み初めたころの、春が近いこの時期、春の淡雪や、風花を詠んだものです。初期の作品の中では、よくできたほうかなと、自分誉めしております。歌物語・和歌集の「4の巻、別れ」の冒頭です。


いもまてば ちりおくれたる はるのゆき まようこころを しりてふるらん
妹待てば 散り遅れたる 春の雪 迷ふ心を 知りて降るらむ
(あなたが来てくれるのを待っていると、季節はずれの春の雪が、私の心の迷いを知っているかのように、迷いながら降っています)

いもこいて わがまちおれば はるのゆきや ちりおしみつつ やみがてにふる
妹恋ひて 我が待ちをれば 春の雪や 散り惜しみつゝ 止みがてに降る
(あなたが来るのではないかと、恋しく待ちわびながら過ごしていると、春の雪は降りきってしまうのが惜しいかのように、降っては止み、降っては止みして、いつまでも降り止みません)

うめさきて さくらまちいる あおぞらに こしかたみえぬ ゆきまいちろう
梅咲きて 桜待ちゐる 青空に 来し方見えぬ 雪舞ひ散らふ
(あなたを恋しく思っていると、梅が咲いて、桜が待たれるこの季節、青空から春の雪が、こぼれるように降ってきました)


***『歌物語 花の風』2011年2月28日全文掲載(gooブログ版)***
***『和歌集 くりぷとむねじあ』2011年10月26日全文掲載(gooブログ版)*** 


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ホームページ開設予告

2012年02月17日 | 日記
 実作が一段落しました。ブログのこれまでの記事を解説篇にまとめ、歌物語篇と和歌集篇を推敲して、3部構成で、近日中にホームページ上でアップします。
 サイト名・アドレスは、下記の予定です。

日守麟伍ライブラリ
http://book.geocities.jp/himringo


***『歌物語 花の風』2011年2月28日全文掲載(gooブログ版)***
***『和歌集 くりぷとむねじあ』2011年10月26日全文掲載(gooブログ版)***

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2首推敲

2012年02月13日 | 日記
 最近の歌の2首を、若干推敲しました。最終形を載せておきますので、前回、前々回のものと見比べてください。現代語訳は変りません。

大鳥の 帆船のごとく 夕凪の 底ひに沈む ゆるき羽ばたき

雪に浅き 川の流れを 曲に至る 堤に沿ひて 瀬音や失する

***『歌物語 花の風』2011年2月28日全文掲載(gooブログ版)***
***『和歌集 くりぷとむねじあ』2011年10月26日全文掲載(gooブログ版)***

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「大鳥」の歌

2012年02月10日 | 日記
しばらくあとの日の同じような夕暮れ、やはり風が吹き止んで、遠くの物音が耳近くにしているのを聞いていると、近くを大きな鳥影が飛んでゆき、そのゆるやかな、ややたるんだ羽ばたきの音が、船の帆のように響いて、静まり返った地上を滑っていきました。大鳥、羽ばたき、帆船、夕凪、などの言葉を並べ替えて、推敲してみます。五つめが一番いいようです。

大鳥の 空低く飛ぶ 夕凪の 帆船のごとく 重き羽ばたき
大鳥の 羽ばたきゆるく 夕凪の 空低く飛ぶ 帆船のごとく
夕凪の 空低く飛ぶ 大鳥の 羽ばたきゆるく 帆船のごとき
夕凪の 空低く飛ぶ 大鳥の 帆船のごとき 羽ばたきの音
大鳥の 帆船のごとく 夕凪を 空低く飛ぶ 羽ばたきの音

おおとりの ほぶねのごとく ゆうなぎを そらひくくとぶ はばたきのおと
大鳥の 帆船のごとく 夕凪を 空低く飛ぶ 羽ばたきの音
(風が吹き止んで、遠くの物音が耳近くにしているのを聞いていると、近くを大きな鳥影が飛んでゆき、そのゆるやかな、夕凪を行く船の帆のように、ややたるんだ羽ばたきの音が、静まり返った中に響いてきました)

*   *   *   *   *

 前回の歌は、雪の降り積もった翌日、浅い流れのせせらぎの音を聞きながら歩いていき、やがて大きな曲(わだ)に出て、音が急に小さくなる情景を詠みました。雪、曲、音の消滅、あるいは拡散といった言葉を並べたのですが、下の句がしっくりしませんので、少し推敲します。1つめは既出、2,3つめが別の形です。3つめを最終版とします。

雪に浅き 川の流れを 曲に至る 水音離れて 空にや散らふ
雪に浅き 川の流れの 音止みぬ 曲の堤ゆ 空に吸はるゝ
雪に浅き 川の流れを 曲に至る 堤に沿ひて 水音や失す

ゆきにあさき かわのながれを わだにいたる つつみにそいて みなおとのうす
雪に浅き 川の流れを 曲に至る 堤に沿ひて 水音の失す
(雪が積もった日、浅い川の流れに沿って歩き、やがて大きな曲に出ると、せせらぎの音が急に小さくなり、両岸の堤の雪面に沿って、空に拡散していくようでした)


***『歌物語 花の風』2011年2月28日全文掲載(gooブログ版)***
***『和歌集 くりぷとむねじあ』2011年10月26日全文掲載(gooブログ版)***

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