日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

季節外れの新作4首

2012年12月08日 | 日記
 推敲がなかなか終わらず、残っていた作品を4首、まとめて発表します。どれも多少とも季節はずれですが、ご容赦いただき、過ぎ去った季節を思い出しながら、お読みくだされば幸いです。

 夏、沼に沿った木造の渡り廊下を歩いて、蒲が生えているところを通りかかると、ふと懐かしい人の思い出が蘇りました。立ち止まってあたりを見回すと、遠く離れた人の不在が胸に迫りました。

がまおうる あさきぬまべの わたどのを ゆくあとさきに いものあらなく
蒲生ふる あさき沼べの 渡殿を 行くあと先に 妹のあらなく
(蒲が生えている浅い沼に沿って、渡り廊下を通りかかったとき、同じような渡り廊下を、貴女と後になり先になって一緒に歩いたときの思い出が蘇り、切ない思いであたりを見回しています)

 秋が深まり、木々が黄葉・紅葉し、落葉するころ、坂道を歩いていくと、上空を風が吹いたのか、落葉がひとしきりあって、地面に落ちたときの軽い擦り音が、耳を聾するほどあたりに満ちました。

かぜゆるや かれはのみちに おちしきり みみさうるがに すりおとのみつ
風揺るや 枯葉の道に 落ちしきり 耳さふるがに すり音の満つ
(風が吹いたのか、枯葉がひとしきり落ちてきて、地面を走る軽い擦り音が、あたりに満ちました)

 暮れていこうとする森の中、低く途切れず響いていた虫の音が、歩くにつれて、やがて土に滲みこんでいくように、小さくなりました。

ゆうぞらの そこいにみつる むしおとの ひびきのおもく つちにしみゆく
夕空の 底ひに満つる 虫音の ひゞきの重く 土にしみゆく
(暮れていこうとするころ、低く響き満ちていた虫の音が、歩みにつれて、やがて土に滲みこんでいくように、小さくなりました)

 秋の終わり、曇り空の一日が、もうすぐ暮れようとするころ、大川にかかる橋を移動していると、水面すれすれに夥しい鳥が飛んでいました。その川の流れの彼方は薄く夕映えて、雲の薄くなったところから、蒸気のような黄金色の光が、地上に降り注いでいました。なお、「むす」という言葉は、「蒸す」「産す」という二文字を重ねています。というより、もともと「カミ」の語源が「カビ」と同じとされるように、生産力としての「カミ」は湿度の高さと密接にかかわるもので、蒸気のなかに産出されるものです。

むれとりの かわもをわたり さかるへに くものすくまゆ こがねびのむす
むれ鳥の 川面をわたり 離る辺に 雲の透く間ゆ こがね日のむす
(川の面すれすれを飛ぶ夥しい鳥が、遠くへ離れていくのを見ていると、地平の彼方は薄く夕映え、雲が薄く透けたあたりから、蒸せるような黄金色の光が降り注いでいました)


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年内はこれで一段落として、新年からまた折々の歌を発表したいと思います。今年1年、日守麟伍のブログ、また下記のホームページをご訪問いただいた皆様に、お礼を申し上げます。ありがとうございました。どうぞよいお年をお迎えください。

ホームページ「日守麟伍ライブラリ」http://book.geocities.jp/himringo/index.htm


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