日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

高月のおし照る海

2013年07月29日 | 日記
雨模様の日々、少年のころの夏の夜の情景を、思い出しました。ある夜、海岸に出て、防波堤の先まで行くと、雲もなく晴れた星空に、満月が高く小さくかかって、凪ぎた海面を隈なく照らし、細かな光をきらめかせています。空と海のあいだの巨大な空間が、胸いっぱいに膨らむような、内と外、大と小が反転する、不思議な感覚を引き起こしました。

くろぐろと すむほしぞらや たかつきの おしてるうみに なみとかがよう
黒々と 澄む星空や 高月の おし照る海に 波とかがよふ
(雲もなく黒々と晴れた星空に、満月が高く小さくかかって、凪ぎた海面を隈なく照らし、細かな光をきらめかせています)

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森の歌、3首

2013年07月20日 | 日記
 森の木々や草花のように、風や雨のように、繰り返す言葉の並びが少しずつ変化して、同じような形をとります。


 木立沿いのベンチで、ゆるやかな風が吹き始めて、後ろの梢葉を大きくひと揺らぎさせると、次々と隣の木に移っていきます。風が吹きすぎたあとは、またもとのように静まり返って、音もなく小さく揺れています。

かぜゆるく あゆみゆくがに こずえばの ゆらぎもどるや ざわめきのやむ
風ゆるく 歩み行くがに 梢葉の 揺らぎ戻るや 騒めきの止む
(ゆるやかな風が吹き始めて、梢葉を大きくひと揺らぎさせると、次々と隣の木に移っていき、風が吹きすぎたあとは、またもとのように静まり返って、音もなく揺れています)

 雨の日、木材の遊歩橋を渡ると、曇り空が一面に白く移っているのを、木立の黒い梢が、額縁のように、縁取っていました。

あめひとひ はしのみなもに そらしろく くろきこずえの ふちどりにすく
雨一日 橋の水面に 空白く 黒き梢の 縁取りに透く
(雨の日、木橋を渡ると、曇り空が一面に白く移って、木立の黒い梢に縁取られて、底知れず透き通っています)

 森を出たあたりの、日溜りになっている、小さな盆地のようなところには、鳥の声や人の声、車や飛行機の音が溜まってきて、音と光で溢れるようです。

もりのべの あさきくぼみの ひだまりに おとたまりきて あふれおぼるる
森の辺の 浅きくぼみの 日溜りに 音溜まりきて 溢れ溺るゝ
(森の際の、盆地のような日溜りに、自然や人工のさまざまな音が溢れてきて、光と音に溺れてしまいそうです)

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似姿の歌

2013年07月11日 | 日記
 若さと老いの間のころ、気品ある女性を好きになりました。かつてなく、その後もない、一途な思いに数年苦しみましたが、おかげで、借り物でない恋歌を詠むことができるようになりました。
 ときおり、その人にどこか似ている、気品ある女性を見かけて、彼女の名前を口ずさむことがあります。最近、久しぶりに、そのような人を見かけ、切なさを味わいました。『くりぷとむねじあ歌物語・和歌集』から採録します(五の巻、憂い)。

まれにみる いもがにすがたに めをとめて みしらぬひとに はしきなをよぶ
稀に見る 妹が似姿に 目を留めて 見知らぬ人に 愛しき名を呼ぶ
(ときおりあなたに似た人を見かけて、別人だとわかっても、あなたのいとしい名前を口ずさまずにはいられません)


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川面のさざ波

2013年07月08日 | 日記
 隅田川沿いの道路を、用事で通ることがあります。ある日没後、夕風とともに川の水が増してゆき、薄絹のような川面に、細かな波が立っているのを見て、忘れていたさまざまなことを思い出し、懐かしさが心に満ちてきました。

ゆうまぐれ かぜひたよする おおかわの おものうすきや ちじになみだつ
夕間暮れ 風ひた寄する 大川の 面の薄きや 千々に波立つ
(夕闇迫るころ、夕風に吹かれるように川の水が増してゆき、薄絹のような川面に、細かな波が立っています。私の心も、千々に波立つようです)

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