前から関心があった、「神の島」と称される久高島を訪れる機会があり、短い日程でしたが、小さな島を歩き回り、ところどころで、長い時間を過ごしました。南の島で生まれ、別の南の島で育った私には、馴染みのある風景が多いとはいえ、写真や映像では見たことがあるものの、実見するのは稀な風景がありました(まっすぐな白い道、遠浅のサンゴ礁、石敢当、など)。
北西側の海岸線では、風が吹き付けて、両手を広げて立っていると、風を受けた手のひらがゆらゆらと揺れます。しばらく前、自宅の近くの小さな谷川で、黒鳥が風の中で翼を広げて、ゆらゆらとしている光景を歌に詠んだのを思い浮かべて、鳥の気持ちに近づいた気がしました。
かみのしまの みさきのはなに わがたちて くろどりのごと かぜにいむこう
神の島の 岬の端に 我が立ちて 黒鳥の如 風にい向ふ
(神の島の岬は風が吹き付けて止まず、その突端に立って手を広げていると、風の中で翼を広げてゆらゆらと立っていた、あの黒鳥のような気持ちがしました)
海岸には、風が吹き付け、波がひた寄せ、止むことがありません。
なみにのり かぜにふかれて よりきたる わたつおとだま あまつおとだま
波に乗り 風に吹かれて 寄り来たる わたつ音玉 天つ音玉
(天のたまもの、海のたまものが、耳を聾する風の音、波の音となって、寄せてきます)
低い藪の中を、まっすぐに続く道を歩いていると、雲間から光の筋が天下っています。
くものまゆ さしいるひかり あめつちを つらぬきとおる ますみのはしら
雲の間ゆ さし射る光 天地を 貫き通る 真澄の柱
(雲の間からさし射る陽光の筋が、光の透明な柱となって、天地を貫いています)
反対側の風の静かな海岸線は、遠浅の珊瑚礁の上を、弱い波が寄せて来て、星砂の浜に届かないうちに止まってしまいます。
とおあさの いわせをなみの ひたよせて やがてしずまる ほしずなのはま
遠浅の 岩瀬を波の ひた寄せて やがて静まる 星砂の浜
(遠浅の珊瑚礁の上を、弱い波が寄せて来ては、星砂の浜に届かないうちに、音もなく静まりかえります)
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