日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

朧夜の満月

2013年04月29日 | 日記
 先日、二日続けて夜9時ころに帰宅すると、同じような春の薄曇りの東の空に、満月がぼんやりと浮かんでいました。月は雲に溶け入って、すりガラス越しのように霞んで膨らみ、濃淡の暈が、空一面に、いぶし銀のように滲んでいました。

まどかなる 月おぼろ夜に 溶け入りて 際なくにじむ しろかねの暈

*******
ホームページ「日守麟伍ライブラリ」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

眠られぬ夜のために

2013年04月26日 | 日記
 『眠られぬ夜のために』という本があります。あれこれ考えて寝られないときに、こういうことを考える、という提案です。バッハが不眠症の王侯のために作ったゴールドベルク変奏曲も、即効性はありませんが、あれこれじたばたしていると、いつの間にか寝てしまったり、寝られないと焦っていても、目覚ましで起きるといつの間にか眠っていたのに気付く、ということもあります。
 私も寝られないことが多いのですが、不眠のプロになると、不眠についてあれこれ考えたり、歌をあれこれ推敲したりして、不眠の不安を「有効活用」できるようになります。

 我ながら傑作だと思う、不眠から生まれた歌が、すでに発表したつぎの歌です。これ以上うまい(私にとって)歌は、その後思いつきませんので、これを「日守麟伍不眠の歌」としておきます。

夜の雨の 止み行く音を 数えつゝ 寝覚めも知らぬ しゞまや深き

 雰囲気の似た古歌で、これも前に「叙情フォークのような」と紹介した、平忠度の歌があります。

風の音に 秋の夜深く 寝覚めして 見果てぬ夢の 名残をぞ思ふ

 比べると、時代が違うから当然とはいえ、私の歌のほうが、近代的な不眠の緊張感で勝っていると思います。

*******
ホームページ「日守麟伍ライブラリ」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春の歌、8首

2013年04月04日 | 日記
 私は結構ワルツ王ヨハン・シュトラウス二世が好きで、これを言うと顰蹙を買うのですが、陰気なブラームスが嫉妬したように、陽気な精神が見事な頂点に達しています。私も気質的、美意識的にはブラームスの方に近く、だからこそ、自分に欠けているワルツ王の音楽を聴く喜びは、平均より強いのだと思います。ワルツ『春の歌』なども、ときおり、唐突に心に鳴り響いて、無性に聴きたくなります。そのような、私にしては気質違いの歌が、この暖かさに浮かれたものか、いくつか形をとりました。
 「四季の歌」のようなフォークソング、「春よ」のようなニューミュージックと似た流行歌謡として、お読みください。

 時候の挨拶では、春は「出会いと別れの季節」などと言われ、人間関係や生活環境に区切りがあります。年老いて、喜怒哀楽の幅が小さくなってくると、寒い冬を経て訪れた春の嬉しさは、若い時よりも、素直に感じられます。

人生が終わりに近付いた庶民の喜びは、このような、どこか老僧の還俗めいた境地にあります。前衛的な歌を詠もうとする野心や欲がなければ、いつか誰かが詠んだような、これからも誰かが詠むような、陳腐な感情や発見を詠むだけで、新鮮な感動があります。真実の感動は常に新しい、と言われるとおりです。

 枯れ草のところどころに、緑の若草が生えてきて、水々しい厚みをもって、踏む足を押し返します。

若草の まばらに生ゆる 春の野を 選りつゝ歩む 嬉しくもあるか

足元の緑の草を見ながら、しばらくして花を見上げると、色の鮮やかさが、一際まぶしく見えます。

ためらひつ 踏む若草の 緑して 見上ぐる枝の 花のまぶしき

 あちこちに白や黄や赤色の花が咲いていますが、見上げると、もくれんや桜が空にむかって泡立つように咲いています。

春の園 こゝにかしこに 彩りて 高枝のうれは 白く泡立つ

 道端の小高い家の窓に、日がまぶしく反射していました。

春の園 道の辺に立つ 高館の 窓にまばゆき 黄金の光

 ベンチで休んでいると、鳥の声が響いてきて、空の下に満ちてくるようでした。

春の園 はるかに鳥の 鳴き交はす 底ひに響き したゝり満つる

 数日前は、枝が赤みを帯びていたのが、今日はもう芽吹きはじめて、緑色に染まっています。

枝々の 春に赤むと 見しものを 今日は若葉の 芽ぐみてぞある

 一際鮮やかな夕映えが、音もない薄曇りの春の空に広がり、木々の枝が編む網からこぼれて、こちらに滲んでいました。

夕空の 黄金に映ゆる 薄雲の 枝の網間ゆ 滲む閑けさ

日没近く、風もない静かな春の夕映えに、木立の影が伸びているのを見ると、どこまで伸びているのか、果てもありませんでした。

暮れてゆく 春日に薄く 音もなき 木立ちの影の 伸びて果てなき

**********************
ホームページ「日守麟伍ライブラリ」



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする