日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

春の歌(新作)

2012年09月29日 | 日記
 半年ほど前に読みかけた歌が、このごろになって、ようやく形をとりました。季節外れですが、出させていただきます。

 春の終わり、木陰の石の階段に、白っぽい花びらがまだらに、ところどころ厚く、降り積もっていました。まるで祭壇に供える神饌のように美しく、踏んでいくのが躊躇われました。石の地が見えるところを選んで、おそるおそる通りました。

きざはしに こくうすくつむ はなびらの みけのごときを なおふみがてに
きざはしに 濃く薄く積む 花びらの 神饌のごときを なほ踏みがてに
(木陰の湿った石の階段に、白い花びらがまだらに、ところどころ厚く降り積もって、まるで祭壇に供える神饌のように美しく、踏んでいくのが躊躇われます)


ホームページ「日守麟伍ライブラリ」http://book.geocities.jp/himringo/index.htm

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新作「夏の終わりの歌」4首

2012年09月16日 | 日記
 ここ十数年、暦では夏が終わろうとするころになっても、温暖化で残暑が長く続いています。
 私は海の近くで生まれ、別の海近くで育ちました。夏、南の海岸は強い日差しを受けて、潮の匂いと光の反射で満ち、岸壁から下を覗き込むと、色とりどりの影が、青い海の下でゆらいでいます。そのような記憶が、形を取りました。

いそにゆらぐ かげとりどりに さだめなく よりてわちろう あおきまぼろし
磯にゆらぐ 影とりどりに 定めなく 寄りては散らふ 青き幻
(磯の岸壁から下を覗き込むと、色とりどりの影が、青い海の下でゆらいで、定めない幻を見せています)

 補足すると、この歌には、沖縄を舞台にした小説を映画化した、『青幻記』という作品が重なっています。映像の美しさに加えて、武満徹の音楽が見事な名作で、私には、育った島の岩場のあれこれの場面と二重写しになり、懐かしくてたまりません。「青き幻」は、この映画(原作の小説)の、いわば本歌取りです。

由緒ある神社にお参りして、帰りに池端の休憩所で休んでいると、強い日差しで木々の陰が濃く、水面に黒々と映って透き通る青空は、底深くまで広がっているようでした。

かみがみを いつきまつろう もりのべの みなそこにこき なつぞらのすく
神々を 斎きまつろふ 森の辺の 水底に濃き 夏空の透く
(神社の森に面した池から見ると、強い日差しで森の木々の陰が深く、水面に映る青空が、黒々と透き通り、水底まで広がっているようです)

 暑い日の昼下がりの長い道、セミ時雨の中を、数えるほどの人が、足取り重く歩いていました。

このなつは ゆきすぎがてに いくたりか たゆげにあゆむ せみしぐれみち
この夏は 行き過ぎがてに 幾人か たゆげに歩む 蝉しぐれ道
(今年は残暑が長く、暑い日が続く長い道のセミ時雨の中を、数えるほどの人が、足取り重く歩いています)

 夏の湿度の高い大気の中で、長い大枝がゆるやかにゆれて、まどろむまぶたのように、地にかぶさっていました。その下に立っていると、鳥の声が耳の遠くで、あるいはすぐ近くのように、途切れなく聞こえてきました。

おおえだの まぶたのごとく しただりて とだえぬとりの こえにまどろむ
大枝の まぶたの如く 下垂りて 途絶えぬ鳥の 声にまどろむ
(湿った大気の中で、長い大枝がゆれて、まどろむまぶたのように、地に覆いかぶさり、途切れない鳥の声を聞いてきます)


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秋の新作2首

2012年09月04日 | 日記
初秋、夕暮れになっても暑さの残る日々、日暮れ時に歩いていると、赤とんぼが入日に照らされて輝き、群れ飛んでいました。秋の訪れです。

ひのおもく かたむくもりの ややくらみ このまにちろう あきつばのかげ
陽の重く 傾く森の やゝ暗み 木の間に散らふ あきつ羽の影
(残暑の中、日暮れどきの重たげな入日に、森はしだいに暗くなっていくころ、赤とんぼが木の間を群れ飛んで、入日に輝いています)

 秋雨の日、人通りの少なくなった道は、雨音だけが、耳のすぐ近くまで降り込んできます。

おりおりは ひとにいきこう ほそみちも あめのひとひは みずおとのみつ
折々は 人に行き交う 細道も 雨の一日は 水音の満つ
(ときどきは人と行き交うこともある細い道が、雨の降る日は人通りも絶え、水の音だけが満ちています)


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