日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

「鳴く蝉の」採録

2016年07月31日 | 日記
 今日は昼過ぎまでよく晴れて、夕立があり、晴れ上がったあと、森を歩くと、湿気と蝉しぐれが充満していました。短い命を尽くして鳴く蝉に圧倒されながら、全身で聞きいっているのは、なんとぜいたくな時間だろうと、いつも思います。

 『くりぷとむねじあ歌物語』『くりぷとむねじあ和歌集』の「五の巻、憂い」から、蝉の歌を採録します。

よのうれい ひとのうれいも なくせみの いまをかぎりと ねをのみぞきく
世の憂ひ 人の憂ひも 鳴く蝉の 今を限りと 音をのみぞ聴く
(世には多くの憂いがあり、人にも多くの憂いがあります。蝉はそんな憂いは何もないかのようにひたむきに鳴き、私はその蝉の声をひたむきに聴いています)

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「今ここに」1首

2016年07月23日 | 日記
 中世の名高い歌詠みには、西行をはじめ僧侶が多く、四季の歌だけではなく、恋歌も数多く詠まれています。出家ですから、男女関係は厳禁のはずですが、隠れて密かに情を交わすのはともかく、公けに歌を詠み、和歌集にも載り、しかも名歌として語り継がれています。
 一つの理由は、「煩悩即菩提」という思想で、喜怒哀楽などなどの煩悩が、悟りの機縁となる、喜怒哀楽を離れて悟りは起こらないという考えです。
 もう一つ、仏教ではあまり強調されませんが、恋する相手が「道」「真理」や「菩提」のメタファー、あるいは道しるべになっているからです。これはキリスト教では「恋愛神秘主義」と言われ、古い作品としては、「雅歌」が典型、近い?ところではゲーテ「ファウスト」の結びにある「永遠に女性的なるものが、あなたを高いところへ導く」という考え方、ユングの用語では男性の中の女性原理「アニマ」との関係になります。
 
 慕わしい人の面影が、ふと訪れてくるのは、なにかの「縁起」によるので、はかなくも嬉しく、切なくも楽しい経験です。

(いまここに あらざるいのち おとのうや いもがまなざし えみてみあわす)
今こゝに あらざる命 訪なふや
妹がまなざし 笑みて見合はす

(今ここにいない人が、ふと思い浮かんだのは、貴女が訪れてきてくれたのでしょうか。ほほ笑むようなまなざしと、ずっと見つめ合いました)

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梅雨の歌3首

2016年07月13日 | 日記
 梅雨の時期は、長く降り続く日もあり、晴れ間が出たり、まとまった雨になることもあります。

 数日前、雨脚が弱くなったころに外出しましたが、帰りには本降りになり、雨宿りをしていました。歩道と車道の間に水が溜まって流れ、その中に、片羽を立てた黒い蝶が、帆船のように浮かんで、揺れながら、側溝に消えていきました。

あまみずの あさきながれに くろちょうの かたはをたてて うきゆられきゆ
雨水の 浅き流れに 黒蝶の 片羽を立てゝ 浮き揺られ消ゆ

(大雨で雨宿りをしていると、歩道と車道の間に溜まった水が流れはじめ、片羽を立てた黒い蝶が、帆船のように浮かんで揺れながら、側溝に消えていきました)

 同じ日、晴れ間に神社を通りかかり、すっかり乾いたベンチに座っていると、境内の周囲に植えられ、静かに佇んでいる梅の、雨に洗われた葉と幹が、強い日差しに深みを増していました。

おおあめの ふりあがりたる たまがきの いならぶうめの あおばのふかき
大雨の 降り上がりたる 玉垣に い並ぶ梅の 青葉の深き
(雨上がりの神社で、境内を囲んで静かに佇んでいる梅が、雨に洗われたあと、強い日差しに照らされて、深みを増していました)

 雨の止み間、遠く鮮やかに見える山並に、切れ続く雲と霧がまとわり、木々の葉々を深く潤しています。

やまなみに おおいまるわる くもきりの おとなくふかく はばをうるおす
山並に 覆ひまつはる 雲霧の 音なく深く 葉々を潤ほす
(山並に、切れ続く雲と霧がまとわり、木々の葉々を深く潤しています)

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