古希からの田舎暮らし

古希近くなってから都市近郊に小さな家を建てて移り住む。田舎にとけこんでゆく日々の暮らしぶりをお伝えします。

「日米戦争」開戦の緊迫感に圧倒されつつ、読んでます。

2022年02月28日 21時49分05秒 | 古希からの田舎暮らし
 阿部牧郎の『神の国に殉ず』(小説 東条英機と米内光政)の上巻は読みました。下巻の冒頭で「東条内閣は対米戦争の決意をします」。歴史ではその経緯が数行か数ページで片づけられますが、この小説では「いまその場に身を置くような緊迫感」で読みます。当事者たちのギリギリの状況が肌身に伝わります。一部引用してみます。


 近衛(文麿 ※総理大臣)は同日(昭和16年10月15日)総辞職の手つづきを済ませてしまった。木戸(内大臣で、天皇に次の総理大臣を推挙する地位にあった)は窮地に立った。
 海軍は戦争を回避したがっている。現状では戦争などできない。10月15日を限度に開戦決意という9.6御前会議の決定は白紙にもどさねばならない。それができるのはだれか。
 東条(陸軍大臣だった)と及川(海軍大臣だった)が木戸の頭にうかんだ。だが、ことなかれ主義の及川には多くを期待できない。東条のほうが実行力がある。
 開戦に突っ走るおそれが東条にはある。だが、天皇に避戦を命じてもらえば、彼はその線で努力するはずだ。そうだ東条がいい。東条が首相になれば2.26事件のようなことは起こらないし、起こってもすぐ鎮圧されるだろう。皇室の安泰は保証される。
 木戸は決心して近衛に相談した。それがよかろうと近衛は答えた。
 二人の合意の背景には、新聞に煽られて打倒英米を合唱する国内世論があった。「立て一億。皇国日本の自存自衛のために」の声が日本中にあふれている。もしいま「軟弱な」首相が出て避戦を説こうものなら、クーデターや暴動が起こりかねない。
 近衛や木戸が生命を狙われる事態になるかもしれない。5.15事件や2.26事件で政治家、官僚にしみついた恐怖心を二人は共有していた。いま東条が首相になれば時局が収拾され、指導者層はテロの恐怖から解放される。


 当時の新聞は絶大な力で民衆の心をつかんでいました。新聞にあおられた国民は「オレたちは一等国の国民で、アジアの国々に威張ってあたりまえだ」と思い上がっていました。「アメリカをやっつけろ!」という国民の思いは破裂しそうでした。無謀な開戦でなく自然な成り行きとしての開戦への流れがわかります。後世の歴史家の眼でなく「その時」に身を置く感じです。
 それにしても「あの2.26事件は大きかった」とあらためて思います。



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