虎尾の会

幕末の草莽の志士清河八郎の会の名を盗用しています。主人は猫の尾も踏めません。

松本清張の歴史小説

2007-04-06 | 読書
司馬遼太郎のファンだったので、松本清張の作品はあまり読んでいなかった。
最近、清張の初期の短編小説をいくつか読んだ。昭和30年時代、司馬遼太郎がまだデビューしてなかったころだ。推理小説(現代小悦)だと、その舞台背景になっている昭和30年代の世界はどうしても古く感じてしまうが、歴史小説なら、舞台は古びない。

清張ははじめは歴史小説家として出発した。
作家として独立し、東京に居をかまえたとき、歴史小説の先達、海音寺潮五郎の家にもあいさつにいった。このとき、海音寺の娘さんは清張の顔を見て腹をよじって笑ったらしい。すると、海音寺は、あの人は才能のある、立派な人だ、と娘を叱った、という話をどこかで(たしか海音寺潮五郎全集の月報かなんかだったか)読んだことがある。

清張の初期の歴史小説は、戦国に材をとったものが多く、どれも短編だが、やはりおもしろい。推理小説の世界に入ってからは、歴史小説は少なくなり、江戸時代の「かげろう絵図」や「天保図録」「逃亡」「西海道奇談」など、時代小説、伝奇小説を書く。戦国や幕末は司馬遼太郎にゆずり、清張は司馬の書かない太平時代の江戸を書いた感じだ。いや、清張は英雄豪傑は好きではないので、ふつうの人間が出てくる江戸がよかったのかもしれない。

戦国ものの歴史小説の長編としては、「火の縄」があるくらいで、本格的な歴史長編小説は残さなかった。推理小説もよし、「昭和史発掘」などのノンフィクションもよし、古代史もの(まったく未読)もよし、でも、やっぱり、清張の本格的な大型の歴史小説も残してほしかった。

司馬遼太郎は、NHKをはじめ、朝日、サンケイなどマスコミが大きく持ち上げているが、松本清張は、あれほどの業績を残したにもかかわらず、マスコミがその後も後押しする、後押しして国民世論の形成に寄与させようとするところはあまり見られない。

テレビでは清張の推理小説はくりかえしドラマ化されるけども、「昭和史発掘」も「天保図録」も「西海道奇談」も映像化されていないと思う。
清張の「昭和史発掘」など実におもしろいノンフィクションドラマになると思うのだけど、どこか企画する局はないものか。無理だな、と思う。
清張の史観、社会や時代の見方は、今の時代風潮とはきっと相反するからだ。



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