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■阿地信美智展 Egoist (2018年8月15日~27日、札幌)

2018年08月27日 11時42分58秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 8月25日に見た六つの展覧会はいずれも見応えがあるものだったが、意外性ということでいえば、ギャラリーレタラの阿地信美智展が一番だった。
 阿地さんは大型野外美術展「ハルカヤマ藝術要塞」の事務局として大忙しの働きをみせるとともに、帯広コンテンポラリーアートなどにも出品していた。以前は木による大型の堅牢な造形物を作っていたが、近年は、コンセプチュアルアート的な、知的な側面を強め、そのぶん、造形の比重が弱まっていた(もちろん、そのこと自体を否定するつもりはまったくない)。

 そしたら今回、ギャラリーのドアを開けてびっくり。
 「エゴイスト III」と題した巨大な平面作品が、壁一面に貼られていたのである。

 
 壁面を覆い尽くすほどの大作は、一見して分かるように、google earth の空中写真を手作業で写し取ったもの。黒いアクリル絵の具による地の上に、水性色鉛筆で描いている。
 もっとも、ギャラリーレタラの泉修次さんによれば、阿地さんはこれを平面とは呼ばず、あくまで中央の赤いバツ印の部分が主役の立体作品であり、自分は画家ではないーと言っているとのこと。たしかに、中央を引き立たせるように、周囲の明度が少し暗めになっている。

 その言い分はさておき、画面から読み取れるのは、直線道路と、おおむね似たり寄ったりの大きさの建物の列である。いかにも新興住宅地らしい空中撮影なのだ。1960~70年代にさかんに造成された「団地」が、三角屋根を有する同型の家屋の反復であるのに比べれば、一つ一つの家のつくりに個性が感じられるのは、それよりも新しい時代に開発された住宅地であることを示唆している。
 三角屋根がほとんどなく、中央に溝を持つ平らな屋根(無落雪建築)であることも読み取れよう。
 画面下方にうねうねと伸びる赤茶けた帯は、旧軽川きゅうがるがわという、札幌市手稲区の住宅地を流れる小河川である。

 以上は、地図というか衛星画像を読み取った結果でしかない。作品は、現代の先端をいく画像を、斜めのストロークが鮮やかな、アナログ的手法で写し取ったものだ。
 記号も絵画たり得ることはジャスパー・ジョーンズ以降、あきらかになったと思うが、ここではこの巨大な平面に何を読み取るのかは、鑑賞者にゆだねられているといって差し支えないだろう。



 「エゴイスト III」以外は、これまでの野外美術展で発表した作品が多い。
 画像は、昨夏、胆振管内むかわ町穂別で開かれた「ポンベツ藝術要塞」で、森を流れる小川の倒木に配置した「切り倒される一つの木が成し遂げる意味」。
 金属線にやや細い金属線を溶接してつなげ、さらにその先にピアノ線をさし込むという、手の込んだ長短の赤く細い棒54本を、並べている。

 ポンベツ藝術要塞では、現地ではたしかに存在を確かめられるのに、写真に撮ると、緑の中の細い線なのでちっともはっきり映ってくれないという作品であった。
 同じ物体なのに、ホワイトキューブでは見え方が全く異なる。これほど設置個所によって見え方(写真の写り方)が違う作品も珍しいと思う。

 この1本を巨大化したようにも見える、「ドライバ」という作品が、バルコニーに設置されている。



 しかし、阿地さんの意図とは関係なく、設置当初とは作品の持つ意味合いが最も変わってしまったと筆者に感じられたのは、帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒトの発表作品「エゴイスト」である。
 当時は「occupied」という看板だけだったが、今回の再発表にあたって、作者が「私はエゴイスト」と背中に英語で書かれたシャツを着て看板と一緒にうつっている写真を添えている。また、帯広コンテンポラリーアートのテーマをいかに踏まえたかについて、自らがつづったテキストも貼られている。

 ただ、筆者には、この看板の設置された場所が、帯広駐屯地の十勝飛行場だということが、この1カ月ほどの情勢の変化で、作者の意図を完全に乗り越えてしまったように思う。

 北海道新聞の7月26日1面トップのスクープから引用する。

 今夏以降に道内で行われる日米共同訓練で、防衛省などは参加する米軍の輸送機「オスプレイ」の補給拠点として、陸上自衛隊帯広駐屯地(帯広市)内の十勝飛行場の活用を検討していることが25日、分かった。給油や整備を行う補給拠点は昨年、米軍三沢基地(青森県三沢市)だったが、今回は道内3演習場での広域訓練を予定していることなどから、米側が道内の補給拠点を要望、帯広が候補地に浮上した。駐屯地は住宅街に囲まれており、安全面の懸念などから地元の反発も予想される。

 訓練は9月ごろの2~4週間の期間で実施し、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)所属のオスプレイ4~6機を参加させる予定。(以下略)


 危険性が指摘されているオプスレイだが、米軍から言われれば飛んでくることを断れない日本の現状が、まさか「occupied」の看板があった場所の目と鼻の先であからさまになるとは、1カ月前までは思ってもみなかった。

 阿地さんが予言者だったのではなく、単なる偶然だろう。
 しかし、この事態が、日本が実質的にいまも米国の「占領下」にあるということを、如実に示しているとしか、筆者には思えないのだ。



2018年8月15日(水)~27日(月)正午~午後6時、火曜休み
Gallery Retara(札幌市中央区北1西28 MOMA place3階)


関連記事へのリンク
帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト(2016)

阿地信美智「使いものにならない領域(七)天国へのハシゴ」 ハルカヤマ藝術要塞 (2013)

阿地的空間処理法(再考)=2009
第6回北海道高等学校文化連盟石狩支部美術部顧問展(2009年1月、画像なし)

北の彫刻展-心の中の自由な世界- (2008年8-10月)
第5回高文連石狩支部美術部顧問展(2008年5月)

阿地的空間処理法(試行)=07年
阿地信美智 主記憶の断片化(07年、画像なし)

阿地信美智個展(01年)





・地下鉄東西線「円山公園」駅・円山公園駅バスターミナルから約360メートル、徒歩5分
・同「西28丁目駅」から約540メートル、徒歩7分
※円山公園駅は改札と出入り口の間が長いので、両駅の改札からレタラまでの距離はそれほど違いありません

・ジェイアール北海道バス、中央バス「円山第一鳥居」から約690メートル、徒歩9分
※小樽行き都市間高速バス全便(北大経由除く)と、手稲、銭函方面行きの全便が止まります


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