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■辻井京雲作品展<Part1>~軌跡~ (8月16日まで)

2009年09月05日 22時42分46秒 | 展覧会の紹介-書
 まず、アップが遅れたことをおわびします。


 辻井京雲さんは、道内を代表する書家のひとり。
 すくなくとも、個展の開催回数ではトップを争うであろう。
 今回の書展は、毎日新聞の全国版「書の世界」に取り上げられた。(下にリンクあり)

 1944年、雨竜町(空知管内)生まれ。
 金子鴎亭に師事し、毎日展、創玄展に出品。ロンドンの大学で書を講じたこともある。
 現在は、日展会友、毎日書道会評議員、書道道展会員・理事、北海道書道連盟理事など。道教大教授として多くの後進を育ててきた。札幌在住である。

 ところで、辻井さんといえば、謝らなくてはならないことがある。
 ご本人には会場で謝ってきたが。
 それは、2001年の「さっぽろ美術展」について書いたとき、中村武羅夫の「誰だ、花園を荒らす者は!」が題材だったことを取り上げ、プロレタリア文学に反対する評論の表題であることが気に入らないという意味のことを記したのだ。
 いまにして思えば、若気の至りというか、旧弊な公式左翼の教条主義というか、お恥ずかしい反応であった。

 中村武羅夫が、プロレタリア文学に反対の陣営にいたということは、文学史の事実としては、間違いではない。
 ただし、原典にあたってみると、決して彼は労働者の弾圧に加担したのではなく、文学や芸術を「主義」へと回収する性急な試みに警鐘を鳴らしていたのだ。

(前略)マルクス主義としての明確な目的意識を持たない文芸を、十把一束的に、ブルジョア文芸として排撃し、マルクス主義の目的の下に隷属しない作家を、直ちにブルジョア作家として否定し去ろうとするような、粗笨と横暴に対しては、文芸の正道的立場の上から、あくまでこれに反対せずにはいられないものだ。
 (岩波文庫「日本近代文学評論選 昭和篇」63ページ)

 あるいは

 花は何んのために開くかを知らないだろう。小鳥は何んのために歌うかを知らないであろう。恐らく、咲き満ちた花の美しさには、プロレタリア的イデオロギイもなければ、ブルジョア的イデオロギイもありはしない。小鳥の歌も同じことだ。
 (同68ぺージ)

などというくだりを読むと、彼の「イズムの文学より、個性の文学へ」という主張は、しごくもっともなように思われる。
 小林多喜二など一部を除いて未熟さを指摘されたプロレタリア文学が、権力による大弾圧がなければより隆盛を極めたかどうかは、歴史に「もし」を問うことにあまり意味がないのと同様に、なんともいえないところであろう。
 ただ、歴史的な文脈を離れて読めば中村の文章のいわんとするところは、まったくもって正当といわざるを得ないのだ。

 そう、書家は、文脈を意に介さず、ビビっときたことばを書く。
 「ふだんから、気になったことばは書きとめておきます。わざわざ探したりはしませんね。気持ちがなえてきちゃうし」
という意味のことを、会場で語っていた辻井さん。
 この中村武羅夫の評論文の表題もたまたま書きとめておいたものだろう。
 その意味では、冒頭の画像で、左側にうつっている草野心平の詩句もおなじに違いない。

 「天の無色の街道をキキキキ キキキキ 寒波はながれ自分は獨りこの角を曲る」

 キキキキ、というオノマトペに辻井さんは惹かれたのではないだろうか。
 そこに、この作品の強度が、最も鋭角的に露呈しているように、筆者には感じられたのだ。

 


 あとまわしになってしまったけれど、個展の概要を書く。
 出品は56点。1965年、第1回北海道臨池書道展に出品した臨書、67年の第8回北海道書道展特選の殷代金文から、2007年の作まで、歩みを振り返るものとなっている。
 初出も、個展、日展、「北海道の書 20人の世界展」「JAPANESQUE ロンドン展」「40周年記念創玄北京展」など、多岐にわたっている。
 ちなみに、ロンドンの展覧会は、漆作家の伊藤隆一さん(故人)との2人展であった。

 このほか「番外」として、高校生のときに学校祭に出品した「蘭亭序」の臨書があり、たしかにこれは、書家として名を成す以前に書かれた番外の作である。ただ「滝川高校」というところにピンときた。雨竜に近いマチだが、滝川といえば、晩年の上田桑鳩が何度か訪れた土地であるからだ。

 それはさておき、56点のうち、漢字と近代詩文がちょうど半数ずつ。これは、意図せざる結果らしい。
 とにかく、これが一人の書家の手になるものだろうか-と、書風の幅の広さには驚嘆せざるをえなかった。

 創玄らしいパワフルな近代詩文の大作があり、陶板の作品があり、金色の地の部分を最大限に生かしたロンドン滞在時の作があり、西域へのロマン薫るヘディンのことばを書いた書があり、とにかく多彩なのだ。
 漢字とひとくちに言っても、じつにいろんな書体に挑んでいる。
 臨書を中途で断念し、自らの感想をつづることに転じたユニークな作品もあった。これは、書家の息遣いのようなものが感じられて、筆者は好きだ。

 つぎの画像、手前は
「薔薇よ汝を棘で刺せ」
で始まる丸山薫の詩。余白のとり方が絶妙である。

           

 なお、9月1-15日、道の駅「田園の里うりゅう 雨竜沼自然館」および雨竜町公民館で、「辻井京雲書作品展」が開催中。
 さらに来年3月9-14日には、辻井京雲作品展part2~軌外~が、スカイホール(大丸藤井セントラル7階)で開かれる予定だ。


2009年8月12日(水)-16日(日)10:00-18:00
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)

□毎日新聞「書の世界」 http://mainichi.jp/enta/art/news/20090806dde018070019000c.html

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