散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

この10年間は物価下落による実質成長~「デフレータの怪」野口悠紀雄

2013年09月26日 | 経済
GDPを介した経済成長の見方は必ずしも一様ではない。8月に四半期の結果が第一次として公表された(成長率0.4%(年率2.6%))。これを受けての報道論調は、株価上昇によって消費者の財布のひもは緩み、特に高額消費が増えたとの解釈であった。テレビでデパートの様子が映し出されていたりした。

しかし、テレビに映し出された事象が事実であるにしても、それがGDPの成長率を説明するほどのものか?常識のある人なら考えるだろう。野口悠紀雄・早大教授の論考によれば、前期からの増加額は3.3兆円、そのうち民間最終消費支出2.4兆円が大きい。デパートの売上げは○○兆円規模なのだろうか?

野口氏は上記の論考「実質成長を支えてきたのは、物価下落による実質消費増」の中で、図表4に示す様に、デフレータの年次推移において、各項目間の違いに注目、“怪挙動”を見出した。



デフレータは、生産を時価で表示した名目値を物価水準の変動を入れて調整し、物価変動の影響を受けない実質値を示す際に用いられ、物価上昇時は「名目>実質」で100%以上、物価下落時は逆に「名目<実質」で100%以下、となる。

表では各項目で示され、家計消費全体では、2011年は過去と比較してデフレ状態(86.9%及び90.8%)を示す。その中で“怪”なのは、項目で大きな違いがあり、「9.娯楽・レジャー・文化」「5.家具・家庭用機器・家事サービス」は大きく下回り、物価下落が顕著なことだ。では、これが家計支出にどのように反映し、消費者の挙動が変わっているのだろうか。開示されている表の中から2012/2001年に関して主要項目を抜粋する。

 消費支出項目     家計全体  4.住居 9.娯楽 1.食料 
 名目2011(兆円)     279.5   70.3   26.8   38.7 
 名目2011/2001(%)   99.3   117.1   84.2   93.6 
 名目2011-2001(兆円)   -1.8    4.7   -4.9   -2.7 
 消費支出項目     家計全体  4.住居 9.娯楽 1.食料 
 実質2011(兆円)     311.9   73.3   52.2   38.4 
 実質2011/2001(%)   114.3   115.3  187.9   94.7 
 実質2011-2001(兆円)   39.0    5.5   24.4   -2.2 
 注)4.住居、9.娯楽、1.食料の内訳は図表4を参照(上位3項目)

先ず、家計消費支出全体から見ると、名目では11年間で僅かに減少、要は成長せずに横這いだ。しかし、実質では11年間で14%の伸びを見せる。なかでも娯楽は名目で約5億円の減少を示しながらも、実質では24.4兆円もの大幅な伸長を示す。実質における家計全体の支出の増加、39兆円の6割強を占める。

PC、テレビ、カメラ等、家電、情報個人端末機器の技術革新とコモディティ化の相乗効果である。この10年、私たちの情報空間は濃密になり、量の増大、応答時間の短縮による生活の変貌を経済的に示すデータなのだ。

最後にGDP2012/2001をみておく。名目GDP=94.1%、実質GDP=109%であり、年率1%弱の実質成長を示す。実質GDP2012-2001=42.8兆円、その中で家計支出は28.0兆円、約65%を占める(2012年であることに注意!)。従って、家計支出(=民間支出)の実質増加が実質成長を支える構造になっている。

更に、これまでの議論から、物価の下落、特に娯楽・レジャー・文化関係の大幅な下落が実質成長をもたらしたと言える。では、物価下落の原因は何か、アジア諸国の経済的台頭とそれによる激しい価格競争が大きいと考えられる。

先にも述べたように、特に個人端末機器では、技術革新は新製品に直結し、それが短期間でコモディティ化する世界なのだ。アベノミクスの成長戦略は何を描いて策定されたのだろうか。