人類学のススメ

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日本の人類学者43.近藤四郎(Shiro KONDO)[1918-2003]

2012年10月26日 | H5.日本の人類学者[Anthropologist of J

Shirokondo

近藤四郎(Shiro KONDO)[1918-2003][近藤四郎(1978)『日本の野生動物99の謎』、サンポウジャーナル著者欄より改変して引用](以下、敬称略。)

 近藤四郎は、1918年12月3日、長崎県長崎市で生まれました。その後、1937年に熊本の旧制第5高等学校理科乙類に入学し、卒業後、1941年に東京帝国大学理学部人類学科に入学します。当時の人類学科は、1939年4月に長谷部言人[1882-1969]により創設されたばかりで、近藤四郎は人類学科で第3回生でした。この第3回生には、小林和正・田辺義一・林 夫門がいます。1943年に繰り上げ卒業すると同時に母校の副手に就任し、1945年に助手に昇任しました。

 卒業論文は、脛骨の横断形について行っています。指導教官の長谷部言人は、近藤四郎が計測した脛骨の計測値をノートに書くと、「それは違っている。」と指摘したそうで、「偉い先生になると測らずに数値がわかるのか。」と感心したそうですが、実際は、学生よりも早く大学に登校して事前に計測していたという逸話が、近藤四郎により紹介されています。また、長谷部言人からは、「一生、足を研究するように。」とも言われたそうで、実際、近藤四郎は足の研究を一生のテーマにしました。

 1957年には、「ヒトの姿勢及び歩行運動の人類学的研究 : 主として筋活動電流より見たる 」により、母校から理学博士号を取得しています。1960年、近藤四郎は、母校の生体人類学担当助教授に昇任しました。

 1961年には、アメリカのオハイオ州イエロー・スプリングスにある、フェルス研究所に留学しています。このフェルス研究所は、1929年にサミュエル・フェルス(Samuel FELS)[1860-1950]の財政援助により設立され、主に長期的な成長研究を行っていました。1977年まではフェルス財団により運営されていましたが、その後、ライト州立大学医学部に移管されています。

 やがて、近藤四郎に大きな転機が訪れました。京都大学霊長類研究所が設立されることになり、1967年に形態基礎研究部門の教授に就任し、同時に研究所の初代所長に就任したのです。この人事には、東京大学教授で京都大学霊長類研究所の設立準備委員にも就任していた須田昭義[1900-1990]の影響ともあるいは、東大時代の恩師・時実利彦[1909-1973]の影響があったとも言われています。また、旧制第五高等学校(熊本)時代の同級生が、当時、文部省の文部事務次官と大蔵省の主計局長だったことも幸運だったと、弟子の生理人類学者の岡田守彦により紹介されています。

 1982年に京都大学を定年退官すると、大妻女子大学人間生活科学研究所(2008年に人間生活文化研究所に改称)の教授に就任しました。1987年から1993年にかけては、大妻女子大学人間生活科学研究所の所長も務めています。

 近藤四郎が書いた論文や著書は膨大ですが、主な著書は以下の通りです。

  • 近藤四郎監修(1954)『はきもの』、岩波書店
  • 近藤四郎編著(1961)『現代人間学Ⅰ.ヒトの進化』、みすず書房
  • 近藤四郎編著(1977)『日本人の起源と進化』、社会保険新報社
  • 近藤四郎編著(1978)『日本の野生動物99の謎』、サンポウジャーナル
  • 近藤四郎(1979)『足の話』、岩波書店
  • 近藤四郎(1981)『足のはたらきと子どもの成長』、築地書館
  • 近藤四郎・大島 清(1982)『人間の生と性』、岩波書店
  • 近藤四郎(1993)『ひ弱になる日本人の足』、草思社
  • 近藤四郎編(1983)『人類学講座3.進化』、雄山閣出版

 近藤四郎は、2003年2月6日、死去しました。恩師・長谷部言人と出会ったことから、足の研究を一生のテーマとして成長の研究を行った一生だと言えるでしょう。

 私は、近藤四郎先生の晩年に何度か酒席に呼んでいただいたことがあります。とてもスマートで粋な先生だという印象を持ちました。弟子の岡田守彦先生によると、京都の祇園のお茶屋に度々通われていたとのことで、そういう経験から培われたのだと思いました。

*近藤四郎に関する資料として、以下の文献を参考にしました。

  • 近藤四郎(1983)「長谷部言人先生のこと」『日本人の祖先』(長谷部言人著)、築地書館、pp.173-197
  • 岡田守彦(2004)「近藤四郎先生を偲ぶ:その足跡と業績の俯瞰から」『Anthropological Science』、第112巻第1号、pp.1-8

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