盲目の僧が根本大塔で開眼した話
「高野山往生伝」「厳實上人は大和の国、虚空蔵巌の住侶也。壮年の始、両眼共に盲。業障を懺する為、當山に参籠し纔に鳩杖(上部が鳩の形の老人用の杖)を携へて鵞王(仏)を巡礼す。三年の間、一心に祈請す。有る時、先ず社壇に参り、次いで大塔に詣ずに、忽然として眼開き、日輪新しく現ず。縡楚(さいそ)の間、周章して佇立。猶両目を拭ひ四方を見るに堂舎塔廟朝日に映じ巍然たり。山岳林樹、秋霧を凌ぎて縦横。毫末も計るべき也。隙塵も窺ふに足る。泣て叢祠の月に報賽し、屡ば山殿の雲に踊躍す。其の後、終焉の時刻、彌陀像に向ひ香華を備へ、名号を称し、安座にて即世す。眼前の悉地已成す、身後の得脱豈疑はんや。」