福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

幼くして亡くなる子供・「ひかりの素足」

2020-06-25 | 法話
先日、テレビで太平洋戦争時「3歳の弟が空襲で背中に被弾し、兄の私を切なそうに見ながら息を引き取っていった」という趣旨の話がありました。

終戦直後800人近い子供を犠牲にした「対馬丸事件」もありました。

この他、満州引き上時の子供たちの犠牲、原爆の犠牲児童、東京大空襲の犠牲児童など無数のいたいけな子たちが死んでいっています。


こういう記事を見るにつけても切なくてたまりませんでしたが、宮沢賢治にそれを解決するような小品がありました。


宮沢賢治「ひかりの素足」に雪山で遭難した一郎・楢夫の兄弟が地獄の鬼に責められていて兄が「如来寿量品」と唱えるとお地蔵様(ひかりの素足)が現れて助けられ弟は成仏する、という話があります。
二人は雪山で遭難して他の子供達と共に地獄の鬼に折檻されていました。
「『楢夫は許して下さい。楢夫は許して下さい。』一郎は泣いて叫びました。
『歩け。』鞭が又鳴りましたので一郎は両腕であらん限り楢夫をかばひました。かばひながら一郎はどこからか『にょらいじゅりゃうぼん第十六。』(注)といふやうな語がかすかな風のやうに又匂のやうに一郎に感じました。すると何だかまはりがほっと楽になったやうに思って『にょらいじゅりゃうぼん。』と繰り返してつぶやいてみました。すると前の方を行く鬼が立ちどまって不思議さうに一郎をふりかへって見ました。列もとまりました。どう云ふわけか鞭の音も叫び声もやみました。しぃんとなってしまったのです。気がついて見るとそのうすくらい赤い瑪瑙の野原のはづれがぼうっと黄金いろになってその中を立派な大きな人がまっすぐにこっちへ歩いて来るのでした。どう云ふわけかみんなはほっとしたやうに思ったのです。

その人の足は白く光って見えました。実にはやく実にまっすぐにこっちへ歩いて来るのでした。まっ白な足さきが二度ばかり光りもうその人は一郎の近くへ来てゐました。
 一郎はまぶしいやうな気がして顔をあげられませんでした。その人ははだしでした。まるで貝殻のやうに白くひかる大きなすあしでした。・・『こはいことはない。おまへたちの罪はこの世界を包む大きな徳の力にくらべれば太陽の光とあざみの棘のさきの小さな露のやうなもんだ。なんにもこはいことはない。』黄金いろの光が円い輪になってその人の頭のまはりにかゝりました。・・・
「一郎は楢夫を見ました。楢夫がやはり黄金いろのきものを着、瓔珞も着けてゐたのです。」
『僕たちのお母さんはどっちに居るだらう。』楢夫が俄かに思ひだしたやうに一郎にたづねました。するとその大きな人がこっちを振り向いてやさしく楢夫の頭をなでながら云ひました。『今にお前の前のお母さんを見せてあげよう。お前はもうこゝで学校に入らなければならない。それからお前はしばらく兄さんと別れなければならない。兄さんはもう一度お母さんの所へ帰るんだから。』
『息吐だぞ。眼開ぃだぞ。』一郎のとなりの家の赤髯の人がすぐ一郎の頭のとこに曲んでゐてしきりに一郎を起さうとしてゐたのです。そして一郎ははっきり眼を開きました。楢夫を堅く抱いて雪に埋まってゐたのです。・・一郎は扶けられて起されながらも一度楢夫の顔を見ました。その顔は苹果のやうに赤くその唇はさっき光の国で一郎と別れたときのまゝ、かすかに笑ってゐたのです。けれどもその眼はとぢその息は絶えそしてその手や胸は氷のやうに冷えてしまってゐたのです。」(終わり)

注、「妙法蓮華経如来寿量品第十六」のこと。「仏は人々を救済するために仮に地上に姿を現わされたが、本来は永遠の昔から悟りを開いており、この仏の命は永遠であり常に衆生を救済すべく働いておられる。」と述べる
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