★ 切実な「病気」との付き合い
実際のやり取りは、もっと雑多であり、いろいろな話題が飛び出した。身内で脳梗塞を二つ経験したという話もあった。脳梗塞に効果を発揮する薬が4つあるというお役立ち情報も提示された。つまりみなさん、切実に感じていることがよくわかる。
「脳梗塞はみんなあるよ。小さいのがね。倒れて、おや、なんだろうかと言っているうちに(詰まったところが)流れて、何でもないってことがある。肝心の運動とか思考にかかわる脳神経を詰まらせないかぎり、「無事に」過ごしているってことがある」というHmくんの話は、「病気」と「平生」とを分ける端境を取り払う。それはちょうど、年をとることが、健常者と障碍者の端境を取り払っていくのに似ている。
アルツハイマー型認知障害も、25年という長いスパンで見た場合、どこから「病気」でどこまでが「平常」なのかを(たぶん)特定できない。25年という歳月での「進行度合い」をグラフに書いてあるのだから、どこかで規定できそうな気もする。だが、逆にグラフにしただけで、その端境は、実際生活で区切るしかないのではなかろうか。
★ 赤ちゃんをだっこして歩くと泣き止むのはなぜか。
Sさんは「母親が抱っこして歩き始めたら約3秒後に心拍数が低下する。それは脳がリラックスするからだ。座っているときに比べて泣く時間が10分の1以下になる。」と話す。「マウスの首の薄皮をつまんで持ち上げるとマウスの心拍数は低下する」。これもマウスの脳がリラックスるからというのである。
ここで、「脳がリラックスするとはどういうことか」という問いが出されて、展開されていれば、後の話題のところで、つまづかないで済んだかもしれない。心拍数が低下する。「赤ん坊が安心して眠りにつく」ことを「脳のリラックス」というのだとしている。「安心/不安」と「脳の弛緩/緊張」という図式が、よく了解できる。「脳の弛緩」が、「何も考えないこと/ボーとしていること」という(大人の頭の)イメージでは、ちょっと受け止めることができなかった。
「脳のリラックス」が心拍数や心理的な「安心」ということを意味するとすれば、それは必ずしも「脳」の作用ではないかもしれない。私はむしろ、「心」の動きと指摘した方がいいように思う。「心」がどこにあるかということは、それ自体、面白い問題なのだが、「脳」にあると考えるのは、必ずしも多数派ではない。私はむしろ、「心」は「かんけい」を感知する力であり、皮膚の表面にその感知点は遍在していると考えている。顔で笑うと気持ちが明るく、笑いたくなるという研究も、どこかで目にしたことがある。ああしかし、それはまた別の問題として取り上げた方がいいかもしれない。
話題はしかし、たぶん提起者が期待したのとは違った方向へそれた。
「母親が、なの?」と問い。そして(笑い)。
「父親じゃだめだよ」
「小さい赤ちゃんも男の人と女の人は見わけするわよ」
と、別の話に行ってしまった。もちろんこれはこれで、面白い[ジェンダー]の話題になるのだが、これまた、別の機会に回すほかない。
★ アルツハイマーは先進国病か
Sさんの提起が続く。「衛生的な高所得国の環境はアルツハイマーの発症リスクになる」という研究があるそうだ。ケンブリッジ大学の研究者のものらしい。
「7秒に一人の割合で認知症患者が増加している。その主要因はアルツハイマー型で、40~50%を占める。たとえば全国民が清潔な水を利用できるイギリス、フランスは、ケニアやカンボジアに比べて、アルツハイマー型認知症の発症率が90%高い」
と。衛生リスクがアルツハイマーに関係しているというわけである。
それは、汚濁した水によってなにがしかの抵抗力ができているってことなのか。「不潔だからというよりも、免疫性が高いってこと。アトピーも原始的な方が強いとか。雑菌にまみれて暮らしていると抵抗力がつくってこと?」。疑問が相次いで提出される。アトピーとか花粉症とかの(文明病の)ように、清潔な環境がもたらした人体の脆弱性としてアルツハイマーをみているということなのか。
Hmくんが「生きる年数によるんじゃないの。病気になる前に死んじゃうんじゃないの。」と言ったことで、ひとまずの結論のようになった。でも、ケンブリッジのセンセイがそんなことを見落とすだろうかと、権威主義的な考えがアタマに浮かぶ。
気になったので、あとから話題になった国の平均寿命を調べてみた。ケニア60歳、カンボジア61歳、インド65歳。男女共にした数値。男はそれよりも3歳ほど低い。確かにわが国だけでなく、世界の平均値よりも平均寿命が低い国々である。「発症率が90%高い」と結論付けるよりも、「発症前に死亡する人が9割」という方が、リアリティがあると思った。
★ 矛盾する砂糖の作用
Sさんは「お酒を長寿薬にする賢い飲み方」を話すつもりでいたらしい。
「1日5~30g位飲む人は、まったく飲まない人に比べ、心筋梗塞などの冠動脈のリスクが女性で42%、男性で31%下がっていた」とコメントにある。1日の数量は「アルコールの数値」であろう。
だが彼女が左党であり、日ごろ日本酒の通として名を売っていることを知っている人が、「それは(いつも聞いている話だから)いい。」と忌避したことで、さっさと次の話題に移ってしまった。
ひとつは「眠れない夜、運転疲れには砂糖をひと口」という「砂糖を科学する会」の小さなコラム。
(1) 「寝付けないときに砂糖入りの牛乳をコップ一杯、砂糖が睡眠に必要なアミノ酸を脳に運び、吸収の手助けをするため、安眠を援けてくれます」というもの。
(2) また、「ドライブ中に疲れてきたら、脳にエネルギーの補給を。すばやく脳のエネルギーになる砂糖入りのコーヒーやキャンディで頭をリフレッシュさせましょう。一粒のキャンディは頭をすっきりさせ、安全運転にもつながります」と記している。
このコラム、Seminarでは「砂糖ってそんなにすぐに脳に吸収されるの?」という疑問を引き出しただけで、ほとんど問題にされず素通りしてしまった。だが、不思議な思いは残る。
(1)は「睡眠に必要なアミノ酸を運び」と砂糖を摂取する根拠を説明している。だが(2)では、砂糖のアミノ酸が頭のリフレッシュ、つまり目覚ましの役割を担っている。これって、矛盾ではないのか。ひょっとすると、(2)は「コーヒー」や「キャンディ」の糖分ではなく、カフェインが作用しているのではないか。あるいは、キャンディを口の中に入れているという行為が、例えば唾液の分泌を促し、それが脳の活動を刺激しているのではないか。いくら「コラム」とは言え、「科学する会」が掲載するのであれば、矛盾すると思われることがらの根拠くらいは説明しておくべきではないかと思った。
★ 脳のリラックスは「心地よさ」
もう一つのSさんが提供した話題。「脳のリラックスの為にはブドウ糖が不可欠」というコラム。
「肉・卵・ミルクなどのみ摂取」し、「血中にブドウ糖が少ないと、そのほかのアミノ酸が先に脳に入ってしまい、トリプトファンは脳に入ることができない。」
ところが「肉・卵・ミルクなどのほかにブドウ糖を摂取」し、「血液中にブドウ糖があると、そのほかのアミノ酸は筋肉に入るため、トリプトファンが優先的に脳に入ることができる。」と、図示して示している。
つまり「タンパク質」の摂取にはブドウ糖を加えることで、脳へのトリプトファンの吸収が促されるという。トリプトファンはセロトニンを生み出す物質なのだそうだが、このセロトニンが不足するとうつ病になると、Sさんは話す。
「脳のリラックス? ってどういうことなの?」と疑問が出た。先述の「赤ちゃんをだっこして歩くと泣き止む」のところで取り上げていれば、「能天気になるってこと?」とか「なにも考えないのがリラックスかね」などと話しがそれることはなかったかもしれない。結局、「うつ病になる/ならない」という対比で「脳のリラックス」をぼんやりと受け止めて、話しは先へ進んだ。
「うつ病」というのは、「いろんなことを積極的にやる気がなくなる」「ただじっとして過ごしている」ような気分の揺れ動きというかたちで感じている。多少なりとも、誰もがその感触を知らないわけではないから、関心を引いた。
Sさんは「脳が緊張している。脳がストレスを起こしている。脳が不安定になる。ところが、甘いものをとるとアルファ波、エンドルフィンというホルモンが分泌される。満足しているときにしか分泌されない。」と言葉を補足する。つまり、「心地よい/快適」と感じているときを「脳のリラックス」と言っている。ブドウ糖の摂取が「心地よさ」を増幅してくれるという話だ。
ところが誰かが「北杜夫は躁状態のときに株をバンバン買って奥さんはたいへんだった」と言ったものだから、「北杜夫は高慢ちき」と非難する声が飛び出す。と、自分の縁戚にいた躁状態の人のケースが話され、「そうだよ周りは困るよ。アイムナンバーワンだと思うんよ。病気だよ。誰でも尋ねていく。しゃべったり活動的。そうして、鬱になると何か月も外に出ないでじっと内に閉じこもる。」と。
野々村という絶叫県議の名前が飛び出し、「でもお金返したんでしょ。」「ママがね」と笑い飛ばして井戸端会議。時間が来てしまった。
★ 次回は9月27日(土)15時から、昭和大学で。
次回の講師は、長年住宅事情の取材をしてきたFwくん。テーマは「住宅の商品開発最前線」。ご本人が「まあ、そんなことをやります」とご挨拶をして、夕食会の方に移った。(終わり)
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