mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

当事者性を浮き彫りに

2024-05-17 08:28:48 | 日記
 現代書館のメールマガジンの「web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也」の第150回(24/04/26)で、森達也が映画祭への招待で中国へ行ったときのことを書いている。ホテルでもGoogleもLINEなどのSNSにつながらない。でもoutlookはつながる。でも別の部屋の同行スタッフに聞くと、そちらではgmailがつながらない。yahooニュースは読めるけれども、検索はできない。どういう法則性があるかわからなかったと嘆いている。
 中国のスタッフに聞くと、「中国政府は通信を傍受や監視するために5万人以上の職員を配置していますから、時おり人為的な判断をしているのかもしれないですね」と答えが返ってきたそうです。
 そこで、所謂権威主義国家での体験的な情報統制の状況を挙げる。平壌では「スマホもPCはまったく役に立たなかった」。プーチン体制下のロシアは「ネットへの公然の規制はないようだけど、メディアやジャーナリズムに対する締め付けは厳しい」。近年の香港は「デモ(表現の自由)は徹底して規制され、政府や権力を批判するメディアに対しては国家安全法を根拠に摘発する」となっている。そして「投獄されているジャーナリストの数が世界一多いのはイラン(二位は中国)」と並べて、
《メディアやジャーナリズムが健全に機能できるなら、その国の独裁や専制化は絶対に阻止できる。言い換えれば、独裁的な体制や政治を志向する為政者にとって、しっかりと機能するメディアやジャーナリズムは絶対に排除しなくてはならない存在である》
 と、自分の立ち位置に引き寄せて記し、《例に挙げた国に比べれば日本はまだまし。そう思いたい》とひとまず思う。でもすぐに5年前に新華社通信の記者のインタビューを受けた後にかわした雑談を思い出す。彼はこう言ったそうです。
「今の私たちは、自由な報道や表現、そして政府や党の批判がなかなかできません。理由は明らかです。共産党という巨大な権力が存在しているからです。今の日本のジャーナリズムも、私たちから見ると、中国ほどではないにしても、かなり窒息しかけているように感じます。だから不思議です。日本には中国共産党のような存在はないのに、なぜジャーナリズムは機能不全を起こしているのでしょう」
 このWEB記事は、ここで終わっています。
 対話というこの記事の成り行きをつけ加えておかないと、森達也の展開も読み筋が変わってくるように思います。3月号は斎藤美奈子が、「警察による捏造」の大河原工業の事件のことを取り上げ、警察自身が「捏造」を認め地裁判決も出ているのに、なぜ検察は上告するのかと自問し、組織による「無謬性」へのこだわりを問題にしています。それ引き受けるように、「宝塚歌劇団の上級生によるパワハラ」問題、「松本人志が週刊文春を相手に起こした名誉毀損裁判」のこと、「旧ジャニーズ事務所の東山紀之社長が、事務所スタッフ2人によるタレントへの性加害を把握しているとBBCに語った」ことを取り上げ、組織を守るために、起こった問題を隠蔽し、ねじ伏せ、あるいはぼかしてしまう体質を云々しています。
 森達也の記事は、だから、「組織」をいうのを国家の体制に見立て、情報を巡る権威主義か自由主義かという対比から、もう一歩踏み出して、どうして日本(のジャーナリズム)では、権威主義国家のような情報統制があるわけでもないのに、ジャーナリズムは「機能不全を起こし、窒息しかけている」のでしょうかと、自問している。
 言葉を換えて言うと、斉藤美奈子には「組織体質の問題」としてモンダイを取り上げるときに、ではご自分の立ち位置は何処にあるのと問われたときの「当事者性」が、みえない。森達也には、その当事者性まで行き着いてから考えていこうというスタンスが感じられる。斉藤は文芸評論家であると同時にジャーナリスト、森達也はドキュメンタリー作家であると同時に、ジャーナリスト。でも、評論家であるジャーナリストの中立性という無意識の身のこなしが、斉藤美奈子には反映されている。それに対して森達也は、ドキュメンタリーのディレクターであり作家であるという「報道主体」としての(これまた)無意識があるから、スタンスの違いになって、ここに現れたのであろうと私は読み取った。
 むろん、人は常々いろんなモンダイに出遭い、あるいは直面して、身の裡を揺さぶっている。そのとき、ほんとうにそれって、ワタシを揺さぶっているの? と反芻して意識することをしなくては、オモシロイと感じるデキゴトがワタシにとってどういうモンダイなのか、ワカラナイといえるようだ。
 森達也も、では、あなたはどうかと自問を立ててはいるが、ワタシはどうと応えてはいない。つまりここでは、応えは(とりあえず)どうでもいいのだ。そのモンダイの、あなたはどういう当事者なの? とたえず自問してから、考えはじめる必要をモンダイ提起しているのであろう。


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