世界一周タビスト、かじえいせいの『旅が人生の大切なことを教えてくれた』 

世界一周、2度の離婚、事業の失敗、大地震を乗り越え、コロナ禍でもしぶとく生き抜く『老春時代』の処世術

強制終了 forced termination

2016年01月09日 | 100の力
呪縛から解放された。

がんじがらめにされていたものから、

一気に解き放たれた格好だ。

真の自由を得た。


爽快感が漂う。

と同時に、虚無感に襲われる。


これはいったい何なのか。

これまで、ボクを縛っていたものをさほど意識はしていなかった。

なぜなら、それが当たり前だと思っていたから。

いや、そう思おうと無理やり思い込ませていた節もある。

あるいは、

いつの間にか、縛られてることにさえ気づかないほど鈍感になっていたのかもしれない。。



そして、あるとき、

それは強制終了させられてしまった。

有無を言わさず。

まったく予告もなく。

まるで、舞台の上で演技をしている途中、

勝手に幕が下りてしまったかのように。


「終わったんだ」と気づくのに時間がかかった。

長年血のにじむような稽古を積みかねてきたというのに。

幕が開いて、さあこれから佳境に入ろうかというときに、

いきなり強制終了(forced termination)させらてしまった。


それはあまりに唐突だった。

観客とも隔絶させられた。

舞台の上を見渡せば、今までいた共演者の姿もない。

いつの間に消えたのだろう。


急激に孤独感が襲ってきた。

それは、虚脱感と寂寥感を引き連れていてジワリと忍び寄る。


何が起きたのかさえ判断できないでいた。

ただ、「終わったんだ」という安堵感もフワッとどこかに感じた。

もう、あの繰り返し繰り返し行った血のにじむような稽古も、

失敗しては涙を流したリハーサルも必要なくなったのだ、と。


ただ、悔しかった。

なぜ、最後まで演技をさせてくれなかったのか。

なぜ最後まで踊らせてくれなかったのか。


何のための稽古、リハーサル?

一気に悔し涙があふれてきた。

そして自分の不甲斐なさ、自己嫌悪がそれにとってかわった。

挫折感もボクの胸を刺した。


しばしの戸惑いのあと、

冷静になって辺りを見渡せば、散乱した舞台装置が饗宴の面影を物語っている。

後片付けをしなければ。

拾い集めながら、一つ一つの思い出に浸り手が止まる。

再び悔し涙があふれてくる。


誰もいない舞台。

みんなで作った大道具、小道具の数々。

それが今廃墟のように覆いかぶさる。


その時だった。

舞台の袖に佇む影を見つけた。

ゆっくりとボクに歩み寄る。

ボクも吸い寄せられるようにその影に近づく。


その瞬間、スポットライトが降りてきた。

その姿は、

まるで浮かび上がる天女の様だった。



天女はそっとボクを抱きしめ、

純白の衣で冷え切った身体を包んでくれた。


この時分かった。

アー、この人と演技を続けようと。


それは舞台を一から作り直すことを意味している。

スクリプトも書き直そう。

ボクは再び新たな振りを思い浮かべた。

ボクを取り巻いていた空気が、今までと違うリズムを奏でだした。


天女は、それを優し眼差しで見守ってくれている。


さあ、立ち上がろう。

新しい幕が開くのだ。

涙をぬぐい、笑顔でこれからくる観客にとびっきりの演技を披露しなければならない。

天女と共に。



【追記】


人生は廻り舞台の上の演技に過ぎない。

その舞台も、振りも、スクリプトも、キャストも、衣装も、照明も、音響も

人に頼むより、自分で作ったほうが格段面白い。