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デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

進駐軍を笑わせろ!米軍慰問の演芸史

2022-11-08 06:19:33 | 買った本・読んだ本
書名『進駐軍を笑わせろ! 米軍慰問の演芸史』
著者 青木深   出版社 平凡社  出版年 2022
占領期から朝鮮戦争をへて1950年代後半にかけて、日本全国に散在していた進駐軍の娯楽施設で、米軍兵士の娯楽として、日本人芸人によるバラエティ・ショーが演じられていた。演じていた芸人たちの回想の片隅でしか語られることのなかった、いわば空白となっていた芸能史に光をあて、さらにほとんど知られていないサーカス芸人を含むいわゆる色物の芸人たちの芸を掘り起こした、画期的な一冊である。
前作「めぐりあうものたちの群像-戦後日本の米軍基地と音楽1945-1958」でこの時期の音楽家の活動を詳細にたどった著者は、今度は体と道具を駆使したパフォーマンスで客をつかもうとした芸人たちを追いかける。前作を書くときに取材したダンサー、マジシャン、曲芸師、アクロバットなど10名ほどの芸人の聞き書きをベースに、米軍向けの新聞、週刊誌や業界紙などから集め尽くした記事のほか、紙切りで活躍した初代林家正楽が進駐軍慰問公演の記録を克明につけていた日記、海外でも活躍した芸人たちの記録を追って、入国記録、乗船名簿、海外旅券下付表、アメリカの新聞データーベース、サーカスのルートブック(サーカス団の巡業の日程を記録したもの)など、足跡がたどれるありとあらゆる史料を駆使して、芸人たちの足跡を追いかける。なによりすばらしいのは、そこで演じられていた芸を紙上に蘇らせていることである。このために著者は、ほとんど残っていない芸人たちの映像を執拗に追い求める。アメリカでも大人気となったという永田キング親子の野球パントマイムの映像を追いかけ大阪の上方演芸資料館まで見に行った著者は、「笑い声の音量は「小」でお願いします。」という張り紙があったのにも関わらず大声で笑ったという場面を克明に再現する。この永田キングの評伝を書いた故澤田隆治がプロデュースしていた、最初のお笑いブームをつくったことで知られるTV番組「花王名人劇場」の中で、幾度となく本書でとりあげられている色物の芸人たちを集めた「一芸名人集」を特集、その消え行く芸能を映像に残した。その澤田がおそらく最後となった講演『澤田隆治サーカスを語る』(サーカス学会主催2020年2月1日)で「東洋館という劇場が浅草にあります。そこでいまでもテレビでは見ることのできない珍しい芸をやっています。一度ぜひのぞいてください」と締めくくっていたことを思い出す。澤田の色物芸人への慈しむようなまなざしと著者の視線が交差する。
もうひとつの大きな意義は、日本のサーカス史の中では記されることのなかった、とんでもないすごい芸を披露していた芸人を発掘したことである。頭倒立で階段を登るという、いまであればアメリカの公開オーデション番組「ゴット・タレント」に出演、審査員を圧倒する芸を披露していた難波嘉一である。本書でとりあげているもうひとりのアクロバット芸人クレバ栄治と共に、戦前は海外で活躍、戦後一時日本に戻ってきて進駐軍相手に芸をしたことで著者の調査網にひっかかる。必然的に著者の調査網はアメリカへと広がっていくのだが、このなかで見つけ出したさまざまな資料は、難波やクレバのような海外を舞台として活躍した芸人たちを追跡するときの大きな手がかりとなり、著者の次の新たなステップを切り拓くことになったはずである。次の展開が待たれる。
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