デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

受容と信仰

2022-09-13 17:30:51 | 買った本・読んだ本
書名 「受容と信仰 仙台藩士のハリストス正教と自由民権」
著者 千葉茂 出版社 金港堂 出版年 2021

かねてから何故仙台藩士がいち早くロシア正教を受け入れ、しかも何故ロシア正教の教会が宮城県内、特に北上川沿いに多いのか気になっていた。さらには五日市憲法草案をつくった宮城県出身の千葉卓三郎がロシア正教徒だった、自由民権とロシア正教は関係あるのか、それも気になっていた。こうした問題に真っ正面にとりあげたのがこの本だ。隠れキリシタンから、戊辰戦争での仙台藩がとった立場、ゴシケーヴィチ初代函館領事の来日、箱館戦争での敗北、そのあと多くの仙台藩士がニコライ主教と出会い、洗礼を受け、宮城県内に広まり、さらにはハリストス教徒たちが中心となる自由民権運動の広がり、千葉卓三郎の五日市での活動などの歴史を丁寧に追い、ハリストス正教の歴史、教義まで踏み込みながら、なぜ受容されていったのかという問題に迫った力作である。かなりざっくりとなってしまうが、ひとつは隠れキリシタンがいた場所に、ハリストス正教の教会ができているところに、すでに受容する素地があったこと、そして戊辰戦争の中、仙台藩がとった立場が正義に殉じたもので、薩長の新政権のその正義を踏みにじるような行為に反旗を翻したが、それが敗北するなかで、正義という支えを失った最前線で闘った藩士たちが、ハリストス正教の教えのなかに、光を見出していったことに、その理由があったということになる。そして自由民権運動の基盤をつくることになるのは、人間の本来の幸福と国の安泰を実現する理念を説いたハリストス正教の教えだったということも探り出していった。自由民権運動の拠点となる結社の主張が、ハリストス正教の機関誌の中で論じられていたことに基づいていることを掘り起こしているは、なかなか説得力がある。
ひとつ気になったのは、自由民権運動で大きな役割を演じることになる但木良次(戊辰戦争で責任ちらされ切腹させられた土佐成行は叔父にあたり、その切腹の場にも居合わせた)にしても、千葉卓三郎にしても、バリバリのハリストス正教徒ではないということだ。但木は布教に大きな役割を果たしているが、洗礼は受けていない、千葉も入信してから、いろいろ宗派を変えている。確かに自由民権運動に大きな役割を果たしているとはいえるが、さらに突っ込んだ研究が必要となるだろう。最初は仙台藩士が受容するなかで、布教がひろがるのだが、北上川沿岸にハリストス正教が広がるのは、こうした侍たちの精神性とは別のものがあったのではないだろうか。つまり平民たちがこれを受け入れた背景である。これを著者は隠れキリシタンと繋げていくが、これだけではないだろう。石巻を例にすると、平民でも受容していったのは、裕福な人たちが多いようだ。こうした地域での受容の実態をもう少し郷土史家と共同で調査していくことも必要なのではないかとも思った。
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