元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

野沢尚「深紅」

2009-06-07 17:06:32 | 読書感想文
 幼い頃に家族を虐殺された女子大生が、加害者の同世代の娘に身分を隠して接触し、一種の“復讐”を果たそうとするサスペンス。以前この映画化作品を紹介しているが、小説版はどうもパッとしない。高橋克彦は“これは奇跡的傑作だ!”なんて絶賛しているらしいけど、その評価は怪しいものだ。少なくとも「破線のマリス」や「リミット」といった野沢の他の作品と比べると相当落ちる。

 何よりダメな点は、序盤に一家惨殺事件の詳細を描いてしまったことだ。仕事上の恨みから相手の家族までも殺害してしまう犯人の異常性を冷徹に追うパートは十分衝撃的だが、そのために舞台を現代に移した後半部分が薄っぺらに見えてしまう。ヒロインの側からすれば加害者の娘が(社会の裏街道を歩いているとはいえ)のうのうと生きていること自体が許せないことだろうが、前半の修羅場に匹敵するような見せ場を作ってくれないと読む方は納得しないのだ。

 この程度の“復讐”なんてママゴトと一緒だし、そこに至る心理描写も取って付けたようで物足りない。なお、この事件のモデルとなっている殺人事件が実在するそうだ。ただし、作者が綿密に取材したのかどうかは不明。何も知らない事件関係者が読んだら不愉快な思いをするのではないかと、いらぬ心配をしてしまった。

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