急逝した野沢尚が自らの原作を映画用に脚色したシナリオは、小説版とは比べ物にならないほど良く出来ている。
原作では冒頭の一家惨殺事件の描写があまりにも強烈で、そのため中盤以降延々と続く“唯一の生き残りであるヒロインと犯人の娘との確執”の扱いが、まるで炭酸の抜けたコーラのように味気なく感じたものだ。しかしこの映画版では、過去の事件の真相と現在の主人公二人の“対決”とを同時進行させることにより、緊張が最後まで途切れない。
考えてみれば二つの時制を並列的に分かりやすく描くのは小説よりも映像の方が有利であり、さらに本作では終盤二人それぞれの“過去”と“現在”つまりは四つの時制を混合させることによってドラマティックな効果を上げていることを見ても、野沢尚が活字と映像とのメディア属性の違いを知り尽くしていたことが分かる。
たぶん野沢にとってこの題材は本来“映画向け”だったのだろう。結末に関しても、煮え切らないまま終わらざるを得なかった小説版に対し、映画の幕切れは鮮やかだ。
月野木隆の演出は堅実で、時折挿入される“映像派風の処理”も無理なくこなす。
演技面では主演の内山理名がしたたかさと純情さを併せ持つヒロイン像を実体化して大健闘。こんなに上手い女優だとは思わなかった。水川あさみも悪くないのだが、内山と一緒では影が薄い。それより小日向文世や緒方直人といった普段は善玉役が多い俳優が極悪人を演じているのが面白く、キャスティングの妙味を感じさせる。
本作を観るにつけ、野沢の早すぎた退場を惜しまずにはいられない。彼の全ての小説の映画化を望むものである。