元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「マイ・ブルーベリー・ナイツ」

2008-04-04 06:46:04 | 映画の感想(ま行)

 (原題:MY BLUEBERRY NIGHTS )ウォン・カーウァイはアメリカを舞台に“仕切り直し”でもするつもりだろうか。国際映画祭で話題になった「ブエノスアイレス」をはじめ、「花様年華」「2046」と、彼の近作はまったく面白くない。この作家の才気が強く印象づけられたのは「天使の涙」までである。有り体に言えばそれと「恋する惑星」の2本だけが彼のフィルモグラフィの中で“語るに足る映画”だと思う。そもそも小洒落て捻りの利いたラヴ・ストーリーが身上の監督であり、それを何を勘違いしたのか大仰なテーマや構えた作りに走った挙げ句に、精彩を欠く結果になってしまったと思われる。

 さて本作は、ズバリ言って「恋する惑星」の焼き直しである。特にその中のトニー・レオンとフェイ・ウォンによるエピソードに通じるところが多い。小さなダイナーを舞台にしていること、手紙や鍵が有効な小道具として機能するところ、そして成就しそうでなかなかゴールにたどり着けない恋愛の行方など、ほとんどネタが完全移行していると言って良い。

 だが、それで面白くないのかというと、そうでもないのだ。以前使った素材でも、ニューヨークやメンフィスの街をバックに欧米キャストで撮り直せば、それなりにスマートな作劇に見える。いわば“目先を変えた”という効果が大きいと思う。それどころか、地に足が付いていないキャラクター達の振る舞いを生々しさを抑えたタッチで綴るカーウァイ演出は、軽佻浮薄なハリウッド製恋愛編にマッチしているとも言える(まあ、厳密には本作はハリウッド資本ではないようだが ^^;)。今後はこの線で手腕を発揮してもらいたい。

 いつもながら映像の美しさは特筆もので、盟友の撮影監督クリストファー・ドイルは今回は参加していないものの、ダニエル・コンジという手練れのカメラマンを得て、カラフルで広がりのある映画空間を展開させている。特にアメリカ中西部の広大な原野をまるで異世界のように扱った絶妙の色彩処理や、官能的なまでに食欲をそそるブルーベリーパイの接写などに、非凡な映像センスが垣間見える。音楽の使い方も言うことなしだ。

 ジュード・ロウ、デイヴィッド・ストラザーン、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマンというキャストも万全だが、主人公役のノラ・ジョーンズだけは不満だ。もとより狂言回しみたいな役柄だが、もうちょっと存在感のある俳優を持ってこられなかったのか。彼女は映画初出演ながら売れっ子のシンガーでもあるので、単なる“話題づくり”の配役と言われても仕方がないだろう。ちなみに、私は歌手としてもまったく評価していない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「川の流れに草は青々」 | トップ | 「ボンベイ」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(ま行)」カテゴリの最新記事