元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ボンベイ」

2008-04-05 06:40:09 | 映画の感想(は行)
 (英題:Bombey)95年作品。私が初めて観た本格的なインド製娯楽映画であり、出来の方もかなりの上級クラスである。親の反対を押し切って結婚した回教徒の娘とヒンズー教徒の青年。駆け落ち先のボンベイで双子の息子をもうけて幸せに暮らす二人だが、折しも(92、93年)街では回教徒とヒンズー教徒の抗争が起こり、一家も巻き込まれてしまう。監督はマニ・ラトナム。地元ではヒットメーカーと呼ばれている俊英である。

 何がスゴイかといって、2時間20分の上映時間のあいだ、退屈するヒマが一秒たりともないことである。海沿いの村を舞台にした冒頭部分ではラブ・コメディ、ボンベイに舞台が移るとホームドラマ、内戦場面では戦争アクション、ラストにはヒューマン感動大作として盛り上げるという、娯楽映画のすべての要素をぶちこんだ贅沢さ。さらに意味もなく挿入されるお馴染みのミュージカル場面が最高に楽しい。インドの伝統音楽をベースにしながら、ハリウッドではもうやれないダイナミックな群舞があるかと思うと、ヒップホップのテイストを織り込んだノリのよさで観客を圧倒。欧米のミュージカルより各ナンバーの時間が長いが、それだけに飽きさせないように画面に工夫が存分に凝らされている。

 大仰な展開の連続だが、しかし映画技法は洗練されており、特に前半の人気のない岬で愛を語る二人を中心に、カメラが雄大な風景を捉えながら360度回転し始めるシーンや、サスペンスを高めるための壁を隔てたカメラの横移動など、デ・パルマのお株を奪うテクニシャンぶり。双子が生まれてから成長するまでを音楽に合わせてイッキに見せるくだりでの、MTV顔負けのテンポの良さ。そして迫力満点の戦闘シーンと涙なしには観られないラストの親子の再会場面は、(宗教対立における当事者意識のせいもあるけど)素晴らしい感銘を与えてくれる。

 キャストも実によく、小太りだけど驚くべき身の軽さを見せるアルビンド・スワーミと、父親役のナーラ・ナッスルの味のある演技が印象に残り、そしてヒロイン役のマニーシャ・コイララは欧米の映画でも主役を張れるほどの素晴らしい美人で、映画の華やかさに貢献している。

 地元では大ヒットしたというが、これがヒットしなくて何がヒットするかと思うほどの、笑いと涙と興奮と感動が渦巻く、一大エンタテインメントだ。マニ・ラトナムはポリティカルな題材をデラックスな娯楽路線にまったく違和感なしに乗せられてしまう特異な作家で、ワールドワイドな活躍を期待したい人材だ。

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