元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ありがとう」

2013-02-24 06:56:51 | 映画の感想(あ行)
 96年作品。5年間の単身赴任を終えて、一家の主(奥田瑛二)が自宅に帰ってみると、長女(夏生ゆうな)はチンピラどもに輪姦されている最中で、次女(早勢美里)は自慰場面をチンピラに激写されていた。激怒した彼はチンピラどもを撃退して一件落着・・・・と思ったら、妻(山口美也子)はアル中になっていて、しかもパート先の店長と堂々不倫中。かくいう彼も現地妻(平沙織)と別れたばっかりだった。崩壊していく家族を彼は立て直せるのか。山本直樹の劇画を映画化したのはフジテレビのディレクターである小田切正明で、これが映画デビュー作。R指定作品である。

 家庭内のゴタゴタをエゲツなく描く作品はヘタすれば単なる不快な悪ふざけに終わる場合も多々あるが、この映画は悪趣味と紙一重のところで踏みとどまり、共感を呼べるような作品になっている。その理由はある点で真実を描いているところである。



 “一家の主あっての家庭であり、立て直すのも主の役目である”という明らかにアナクロな価値観にのっとって孤軍奮闘する主人公の姿は、真剣であればあるほど失笑を呼ぶ。娘を辱めたチンピラの親玉(村上淳)の家庭も父親(田山涼成)は不倫、母親(速水典子)は息子べったりの不健全なものだが、これが主人公の家庭とどう違うのかと問われると、実質的には何も変わらないのだ。

 父親の意向が家族の方向を決める、なんてことは幻想に過ぎず、しょせん家族は皆バラバラで自分勝手な価値観を持ち、いずれは崩れていくものだ。その事実から目をそむけ、必死で理想にしがみつく中年男の面白うてやがて哀しい顛末を、シニカルかつ少しばかりの共感をこめて描くスタンスは十分納得できる。

 久々に展開に冴えを見せる荒井晴彦の脚本とキャストの頑張りが印象的。公開当時はあまり話題にならなかった映画だが、辛口の家族劇として要チェックの快作だと思う。

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