(原題:千里走単騎) 余命幾ばくもない息子の代わりに日本から中国大陸に赴いた初老の男と現地住民との触れ合いを描く張藝謀監督作。
これは舞台が中国だということをあまり気にせずに観れば、しみじみとした味わいの佳篇として評価できる。とにかく、右も左も分からない中国の奥地で人捜しをする主人公に、無私の好意と協力を申し出る人々の素朴な表情に心打たれてしまう。
豪勢なもてなしをする村の住民はもちろん、胡散臭そうな現地ガイドも、一見ビジネスライクな旅行会社の女性従業員も、果ては刑務所の看守や囚人たちまで、誰もが親切でにこやか。そのへんをほとんど違和感なく見せているのは張監督の演出力ゆえだろう。息子が取材しようとした“京劇の名人”とその子供とのエピソードも泣かせどころがたっぷりだ。
中国での雄大な風景をふんだんに取り入れた映像も魅力で、日本でのシーン(この部分だけ降旗康男が監督)の整然として寒色系を多用したクールな映像と素晴らしいコントラストを見せている。
ただし、本作に描かれた中国が実物に近いかと言えば、当然のことながら大間違い。これは主演が“たまたま”中国でも人気がある高倉健で、演出家も“たまたま”知日家の張監督だったからこうなっただけの話。
自分の身内以外は人間とは思っておらず、社会的規範も礼節もまったく頭の中にない“典型的な中国人”ばかりをそのまま画面に出していたなら、実に殺伐とした映画になっていたことだろう。
だからこの映画はファンタジーとして楽しむべきものである。これを観て“やっぱり中国の人は親切だねぇ”なんて思うのは、脳天気に過ぎる。
ヤンヤンの預けられている村は、少数民族の拠点であり、平地の産業都市とはずいぶん、異なっていますからね。ドキュメントを見ているようでした。