元・副会長のCinema Days

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「君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956」

2008-02-13 06:32:13 | 映画の感想(か行)

 (原題:SZABADSAG,SZERELEM)なかなか楽しめた。1956年のハンガリー動乱を描く近代史ものだが、この手の映画にありがちな“重苦しさ一辺倒、シリアス優先”でないところが良い。

 主人公をメルボルン五輪出場を目前にした水球チームのエースと学生運動の女闘士にして、政治ネタとスポ根ものを融合させ、厳しいテーマをすんなりと描こうという作戦だ。結果としてそれは成功。いくらシビアな主題を扱おうとも、映画として面白くなければ価値がない。女流監督クリスティナ・ゴダのスタンスは正解だ。

 水球の試合場面はかなりの迫力。このスポーツを正面から扱った映画を他には聞かないが、ここでは選手の肉体に迫るカメラワークや効果的な水中撮影など、思わず引き込まれてしまう鮮やかな描き方だ。冒頭のモスクワでの東欧大会が審判のあからさまな依怙贔屓により敗戦に終わり、その屈辱をバネにしてオリンピックの本番でファイティング・スピリット全開の大暴れを見せるあたり、スポーツ映画の常套である“臥薪嘗胆を経て、勝利をつかむ”という図式が全面展開していて嬉しくなる。

 一方のハンガリーの苦難の歴史を描くパートは実に骨太。激しい戦闘シーンやソ連軍及びAVOと呼ばれていた秘密警察機関の横暴も取り上げられ、この時代の厳しさを表現している。CG処理は幾分拙い点もあるが、市街戦の臨場感は特筆できるレベルに仕上がっており、けっこう予算も投入されていることが分かる。

 だが、焦点になるのは好きな女の子がたまたま運動家であったため、傍観者ではいられなくなるといった、主人公のいわばノンポリぶりを真正直に掘り下げている部分だ。おそらく当時の大多数の民衆は急進派でも何でもなく、主人公と同様の小市民だったはずだが、それが騒然とした世相から次第に事の重大性に気付いてゆくという、普遍的な姿勢の変遷のスキームを大仰にならずに示しているあたりも納得である。

 プロデューサーのアンドリュー・ヴァイナのフランチャイズはハリウッドだが、彼自身1956年にハンガリーを脱出している。アメリカ映画を手掛けながら、いつかは祖国のハンガリーの近代史を題材にしたいとずっと考えてきたらしい。逆に言えば深刻さよりも娯楽映画に振った作りなのも、製作者のハリウッド人種としてのカラーなのかもしれない。いずれにしても、観る価値のある力作だ。

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