元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「世界にひとつのプレイブック」

2013-03-11 06:29:16 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Silver Linings Playbook )いい映画だが、少し不満な点もある。映画の基本的な構造としては、デイヴィッド・O・ラッセル監督の前作「ザ・ファイター」と同じだ。つまりは“家族がいれば何とかなる。だからポジティヴに生きよう”というメッセージを前面に打ち出し、それに沿って軽妙な語り口を展開しようというやり方である。もとよりこの方法論に異存があるわけでもなく、今回も楽しく観られた。しかし、何となく似たような味付けの料理を連続して出されたような感じもあって、諸手を挙げての賞賛は差し控えたい。

 妻の浮気現場に出くわしたことでメンタル面の障害を負い、教職も追われて入院を余儀なくされたパット。やっと退院の許可が下り、実家で両親と同居しながらリハビリに励むが、別れた妻への未練もあって上手くいかない日々を送る。

 そんな中、友人から若い女ティファニーを紹介される。彼女は夫を亡くしたショックから立ち直れずに精神のバランスを崩し、ヤケになって職場の同僚全員(女性も含む)と寝てしまったというような不安定な生活から抜けきらない。そんな二人が出会って何とか人生をやり直そうと、取り敢えずはダンスコンテストの出場を決意する。

 確かにパットとティファニーは常人の域を外れてはいるが、端から見る限りは実に愛嬌があって面白い。特にゴミ袋を被ってエクササイズをしようとするパットと、神出鬼没的にまとわりつくティファニーがワーワー言い合いながらランニングに勤しむシーンは笑える。

 周囲のキャラクターも一筋縄ではいかない奴ばかりだ。パットの父親はアメフト賭博の胴元で、過度にジンクスに拘るあまり家族に無茶振りをする。母親はといえば、脳天気を絵に描いたよう。父親のバクチ仲間やパットの友人達も海千山千の面子が揃う。そのため主人公二人の無軌道ぶりがうまく“中和”されて、全体的に違和感のない展開が可能になっている。

 クライマックスのコンテストの場面は盛り上がり、しかも目標が優勝とか上位入賞とかいった御大層なものではないという設定が効いていて、笑いを誘う。

 さて、物足りない面だが、これは以前観た「人生、ブラボー!」とほぼ一緒だ。つまり、あまりにもシチュエーションが御都合主義である。考えてみれば「ザ・ファイター」のような“息子がスランプに陥っているプロボクサーである”という設定よりも、本作の“家族にメンタル面で問題を持っている者がいる”という話の方が遙かに普遍性が高いのだ。

 この映画では幸いにして主人公達は周りに好かれていて、家族も友人も良い奴ばかり。パットもティファニーも不運な出来事に遭遇しなければ、真っ当な人生を歩んでいたはずのキャラクターだ。これがもしも、主人公が最初から独りよがりな人間で、周りの者も敬遠したくなるような者だったらどうだろう。実際にはそういうケースの方がずっと多いように思うのだが、この映画ではそれに対する処方箋を用意してはくれない。

 明るく楽しい映画であることは結構だが、現実とのギャップを考えると無条件での高評価は与えにくいのだ。

 主役のブラッドリー・クーパーとジェニファー・ローレンスは好演。オスカーを手にしたローレンスが注目されているが、クーパーのナイーヴなパフォーマンスも要チェックだと思う。父親役のロバート・デ・ニーロをはじめとする脇の面々も良い味を出している。ダニー・エルフマンの音楽および既成曲の使い方もセンスが感じられるし、日本人カメラマン高雅暢の仕事ぶりも注目されよう。

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